10月19日の判決。債務整理の受任通知と支払い停止

最高裁判所第2小法廷平成24年10月19日判決

債務者の代理人である弁護士が債権者一般に対して債務整理開始通知を送付した行為が破産法162条1項1号イ及び3項にいう「支払の停止」に当たるとされた事例

事案の概要

債務整理を受任した弁護士が債権者一般に宛てて送付した受任通知に,「当職らは,この度,後記債務者から依頼を受け,同人の債務整理の任に当たることになりました。」,「今後,債務者や家族,保証人への連絡や取立行為は中止願います。」とのみ記載され,債務整理の方針は記載されておらず,自己破産の申立てにつき受任した旨も記載されていなかった。

その後,債務者が一部の債権者に弁済をし,その後,債務者は破産手続開始の決定を受けた。

問題の所在

債務整理の受任通知が破産法162条1項1号イ又は3項にいう「支払の停止」には当たるとすると,一部債権者への弁済は「支払の停止」後の弁済なので,否認権の対象となる。

裁判所の判断

本件通知には,債務者であるAが,自らの債務の支払の猶予又は減免等についての事務である債務整理を,法律事務の専門家である弁護士らに委任した旨の記載がされており,また,Aの代理人である当該弁護士らが,債権者一般に宛てて債務者等への連絡及び取立て行為の中止を求めるなどAの債務につき統一的かつ公平な弁済を図ろうとしている旨をうかがわせる記載がされていたというのである。そして,Aが単なる給与所得者であり広く事業を営む者ではないという本件の事情を考慮すると,上記各記載のある本件通知には,Aが自己破産を予定している旨が明示されていなくても,Aが支払能力を欠くために一般的かつ継続的に債務の支払をすることができないことが,少なくとも黙示的に外部に表示されているとみるのが相当である。

そうすると,Aの代理人である本件弁護士らが債権者一般に対して本件通知を送付した行為は,破産法162条1項1号イ及び3項にいう「支払の停止」に当たるというべきである。