最高裁判所第2小法廷平成20年9月12日判決
事案の概要
娘が親父の車を運転して友人と酒を飲みに行き、酔っ払って眠ってしまったので、娘を車に乗せて友人が親父の車を運転して帰宅しようとしたところ、事故ってしまい、同乗していた娘が怪我をした。
娘は自賠責法3条に基づき親父を運行供用者としと自賠責保険に被害者請求したところ、断られた。
問題の所在
親父は娘の友人の存在自体認識していない以上,娘の友人の運行を支配しているといえるためには、娘を介して初めて親父は娘の友人による運行支配が可能となる。
ところが、娘は友人に運転を依頼する意思がなく、泥酔して友人が運転していること自体認識していない。
友人は自宅に帰るために親父の車を運転していたにすぎないから、娘のの運行支配はなく、娘を介して存在していた親父の運行支配も本件事故時には失われていたというしかないのではないか。
裁判所の判断
本件自動車は娘の親父が所有するものであるが,娘は実家に戻っているときには親父の会社の手伝いなどのために本件自動車を運転することを親父から認められていた。
娘は,親しい友人から誘われて,午後10時ころ,実家から本件自動車を運転して同人を迎えに行き,電車やバスの運行が終了する翌日午前0時ころにそれぞれの自宅から離れた名古屋市内のバーに到着した。
娘は,車のキーをバーのカウンターの上に置いて,Aと共にカウンター席で飲酒を始め,そのうちに泥酔して寝込んでしまった。
友人は,午前4時ころ,娘を起こして帰宅しようとしたが,娘が目を覚まさないため,娘を車に運び込み,キーを使用して自宅に向けて車を運転した。
娘による上記運行が親父の意思に反するものであったというような事情は何らうかがわれない。
これらの事実によれば,娘は,親父から親父の車を運転することを認められていたところ,深夜,その実家から名古屋市内のバーまで本件自動車を運転したものであるから,その運行は親父の容認するところであったと解することができ,また,娘による上記運行の後,飲酒した娘が友人等に本件自動車の運転をゆだねることも,その容認の範囲内にあったと見られてもやむを得ないというべきである。
そして,娘は,電車やバスが運行されていない時間帯に,車のキーをバーのカウンターの上に置いて泥酔したというのであるから,友人が帰宅するために,あるいは娘を自宅に送り届けるために上記キーを使用して親父の車を運転することについて,娘の容認があったというべきである。
そうすると,親父は娘の友人と面識がなく,友人という人物の存在すら認識していなかったとしても,本件運行は,親父の容認の範囲内にあったと見られてもやむを得ないというべきであり,親父は,客観的外形的に見て,本件運行について,運行供用者に当たると解するのが相当である。