8月8日の判決 盗難車両保険の請求が認められなかった事例事例

8月8日の判決 被保険者以外の者が駐車していた場所から本件車両を持ち去ったことの証明があったとはいえないとして車両保険金請求を棄却した事例

東京高等裁判所平成25年8月8日判決

盗難車両保険に加入していても,いざとなった時に保険が下りない話をよく聞きます。

その理由は,被保険者の自作自演ではないかという疑いからくるものですが,被保険者の主張は信用できないとして保険金請求が否定されました。

事案の概要

自動車ローンを利用して購入したBMWの鍵と運転免許証等を紛失した後,車両の盗難被害に遭ったとして盗難特約を締結していた保険会社に車両保険金の支払いを求めた事案。

前提事実

本件駐車場は,周囲を民家等に囲まれた住宅街にあり,本件駐車場の状況は周囲の民家等から容易に見通すことができる。

本件車両の駐車区画は本件駐車場の出入口から見通しの良い場所に位置しており,夜間も,控訴人の当時の住居であったマンション他の民家からの照明や街灯などによって相当程度明るかった。

控訴人は,本件車両を購入した際,電子キー2本とプラスティックキー1本の合計3本の鍵の交付を受けたところ,このうち電子キーである本件鍵1本を紛失したと主張しており,その余の2本の鍵は控訴人が保有しているものと認められる。

裁判所の判断

このことを前提にすると,本件車両を控訴人とは無関係の第三者が窃取するには,

①   鍵を使用せず,何らかの方法で本件車両のドアを開けて車両内に侵入し,イモビカッターなどを利用してエンジンを始動させる方法

②   レッカー車等の牽引車両か積載車両等で運搬する方法

③   控訴人が紛失したとする正規の鍵を拾得した者がその鍵を利用して,本件車両に侵入した上,エンジンを始動させる方法

などが考えられ,これら以外の方法は考えにくいので,以下,これらの方法について検討する。

BMW車のイモビライズシステムは,電子キーに内蔵されている信号発信機から与えられる暗号と車体側のコンピュータとの間で相互に通信を行い,電子キー側の暗号と車体側のコンピュータの認識結果とが一致した場合に限ってエンジンが始動するシステムであり,実際には,ランダム変換コードシステムにより,正規の電子キーによりスターター・モータが作動して回転している間に,当該電子キーには,車体側のコンピュータからその時点での車両データが送信されて保存され,電子キーが車体側のコンピュータに差し込まれる都度,電子キー側から乱数計算の結果新たに創成される実際上は1回限りの暗号が発信され,その暗号と車体側のコンピュータの認識結果とが一致しない限り,エンジンが始動しないシステムである。

そして,本件車両にもそのようなイモビライズシステムが採用されており,その防犯性はかなり高度なものであって,真正な電子キーを使用せずに本件車両のエンジンを始動させることは現実には非常に困難なものと推認される。

本件車両に搭載されたイモビライザーを作動させない機能を有する新たな鍵を作成するためには,BMW社に設置されているコンピュータ(サーバー)に接続して通信を行う必要があるが,それができるのは同社の正規ディーラーに備え付けられたコンピュータに限られており,正規ディーラーを経由せずに新たな鍵を作成ないし複製することは,事実上不可能であるところ,正規ディーラーからそのような接続や通信が行われた事実もないから,本件において,控訴人が主張する上記の方法で電子キーを複製し,その電子キーを使用して本件車両が持ち去られたと認めることはできない。

よって,第三者が何らかの方法により正規の鍵を使用せずに車内に侵入してエンジンを始動させ,本件車両を盗んだ可能性はほとんどないと考えられる。

本件駐車場と本件車両の駐車区画からすると,第三者が本件車両をレッカー車で牽引したり,本件車両を大型の積載車両に搭載する等して,本件車両を本件駐車場から別の場所に移動させた可能性もほぼないと考えられる。

控訴人は,本件鍵を紛失した後,午前1時30分から午前2時頃に当時住んでいたマンションにタクシーで帰宅したというが,本件鍵と一緒にマンションの鍵もなくしたというのであるから,当然,自分では中に入ることはできず,妻を起こすなどして鍵を開けてもらって入ったはずであり,そうであれば,妻から紛失した物は何か,紛失した経過はどのようなものであったか等の事情を聞かれたりして帰宅後も一騒ぎあったはずであるのに,そのような様子も見受けられないこと,平成21年9月22日の深夜にマンションに帰宅した際や同日の朝に外出した際などに,本件車両が本件駐車場に駐車してあるかどうかを確認したり,あるいは本件車両の盗難を防止すべく,何らかの措置を取るのが普通であろうと思われるのに,控訴人は,そのような確認をした形跡がない上,本件車両の盗難を防止するための具体的な措置を全く取っていないのである。

以上の事実からすると,被保険者以外の者が駐車していた場所から本件車両を持ち去ったことの証明があったとはいえない。