10月29日の判決。人の写真を勝手に使えば怒られる。

京都地方裁判所平成24年10月29日判決

原告が著作権を有する写真の著作物を,被告(長野県)が,無断使用したこと等は,原告の著作者人格権(氏名表示権)を侵害するとして,原告は被告に対し,(1)著作者の名誉・声望を回復するための適切な措置の履行,及び,(2)使用許諾料についての支払いを請求できるとした事例

考察

Facebookなどで他人の写真を無断で使用していると思われるケースが散見されますが、気をつけた方が良いですよ。

ちなみに、私の使ってるイラストは無料サイトからピックアップしています。

主文

1 被告は,原告に対し,40万円を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。

事案の概要

原告が著作権を有する写真の著作物に関し,被告が,当該写真を無断使用(無断複製)して原告の著作権を侵害したこと,さらに,無断使用を指摘された後も違法な対応をとったことが不法行為に該当すると主張し,当該不法行為によって生じた損害の賠償を求めた事案。

前提事実

原告は,きのこに関連する記事を掲載したり,きのこの話題を取り上げるテレビ・ラジオ番組あるいは各種イベントに出演しており,「きのこライター」というべき立場で色々な仕事をし,平成10年以降,自身のインターネット上のサイトで,きのこの写真を含め,きのこに関連する様々な情報発信をしており,原告サイトにおいて,次の①ないし③のものを公表していた。
① きのこのイラスト
② 毒きのこであるヒカゲシビレタケの写真
③ 毒きのこであるミナミシビレタケの写真

長野県健康福祉部薬事管理課は,平成14年6月,長野県の公式サイト内の管理課ホームページに,「食べると危険! マジックマッシュルーム 持っているだけでも法違反です」というページを開設し,本件ページを通じて,不特定多数人に対し,毒きのこに関する情報発信を開始した。

本件ページは,新たな法規制により,ある種のきのこが,幻覚作用を起こす成分が含まれているとして所持・販売・栽培が禁止されたことから,そのことを広く周知,警告することを目的として開設されたものである。

その禁止の対象となるきのこの中に,ヒカゲシビレタケとミナミシビレタケの2種類のきのこも含まれていた。

本件ページの製作を担当していた被告職員は,ヒカゲシビレタケとミナミシビレタケの写真も本件ページ内に掲載しようと考え,原告に無断で,原告サイトで公表されていた本件写真及び本件イラストの画像ファイルを複写し,その画像ファイルを用いて本件ページに本件写真と本件イラストを転載した。

長野県では,公式サイト内の各種ページについて,随時,掲載内容や掲載項目の見直しや整理が行われているところ,本件ページについては,平成22年9月に公式サイト内での掲載を止めた。
しかし,本件ページのデータがサーバから削除されなかったため,本件ページは,検索条件の設定次第で,容易に,不特定多数人が閲覧可能な状態となっていた。

原告は,平成23年5月ころ,本件転載行為に気付き,同月11日,電話とメールにより,管理課に対し,本件転載行為が著作権侵害に該当する旨を指摘するとともに,転載当初に遡って著作権使用料を支払うよう求めた。

被告職員は,上記要求が本当に著作権者からの金銭請求であるのかが分からなかったので,原告に対し,何を確認すれば原告が著作権者であることを知ることができるのかを尋ねた。原告は,平成23年5月23日,メールにより,被告職員に対し,本件写真や本件イラストの著作権者が誰かを確認するための文献その他の資料の存在をメールで知らせた。

もっとも,原告が指摘する資料は,書店を通じて購入することができなかったため,被告職員は,平成23年5月30日付けの手紙を原告に送付し,原告指摘の資料を原告から直接購入したい旨を申し出た。その後,被告は,原告から当該資料を購入した。

その後,被告職員は,メールの遣り取りで原告から必要な事情を聴き取る方法で,事実関係の確認を行い,平成23年6月中旬には,原告が本件写真及び本件イラストの著作権者であり,本件転載行為が著作権侵害行為であるとの事実を認識するに至った。

そこで,管理課は,課長名の平成23年6月17日付け文書を原告に送付し,本件転載行為が原告の著作権を侵害した事実を認め,これを詫びるとともに,管理課ホームページにおいて謝罪文を掲載することを知らせた。

本件ページのデータは,上記文書を発送したころまでに,サーバから削除された。

したがって,本件転載行為は,平成14年6月から平成23年5月ないし6月ころまで約9年間継続していたことになる。

原告は,被告職員が著作権侵害の事実を認めた以上,損害賠償の話も進むものと考えていたが,地方公共団体である被告としては,任意に損害賠償金を支払うことが容易ではなかった。

なぜなら,地方公共団体は,通常,職員の職務遂行が私人の権利を侵害した場合の予算措置を講じていないため,本件転載行為に起因する損害を賠償しようとすれば,特別な予算措置が必要となり,議会の承認が必要となるからである。

管理課長は,平成23年7月5日付けの原告宛て書面により,管理課の判断で損害賠償金を支払うことが困難であることを婉曲に説明した。

また,平成23年7月上旬以降,原告と管理課は,どのような謝罪文をホームページに掲載するかについて協議をしていたが,謝罪文の内容とは別に,謝罪文の掲載方法について,原告と管理課で意見の相違が生じた。

原告は,長野県の公式サイトのトップページへの掲載を要求したが,管理課では,管理課ホームページのトップページへの掲載を主張した。

結局,謝罪文掲載場所に関する意見の相違は埋まらなかった。しかし,謝罪文の内容については原告の了解が得られたので,管理課は,平成23年9月9日,管理課ホームページのトップページに,管理課長名での下記のとおりの謝罪文を掲載し,かつ,本件謝罪文に公印を押印した正式の謝罪文書を原告に郵送した。

本件謝罪文の掲載は3週間で終了した。これは,長野県の県民に対する周知文書の通常の掲載期間が3週間であったことから,その取扱いにならったためである。

管理課は,3週間経過後も,原告サイトにおいて,本件謝罪文あるいはPDF化した本件謝罪公文書を掲載して構わないとしていたが,原告は,写真の無断掲載が9年も継続されたのに,本件謝罪文の掲載がわずか3週間とされたことに納得せず,本件謝罪文についても9年間ホームページに掲載するよう要求した。

争点

1  被告職員の事後の対応が,本件転載行為とは別に不法行為となるかどうか。

2 原告が賠償を受くべき金額がいくらか。

【争点に関する原告の主張】

1 本件謝罪文は,長野県の公式サイトのトップページからのリンクも貼られず,管理課ホームページに直接アクセスを試みた場合にだけ表示されるという程度の取扱いであった上,3週間という短期間で削除されており,本件謝罪措置が著作者である原告の名誉を回復するに適切な措置であったとは到底いえない。
さらに,管理課は,本件謝罪公文書の送り状において,本件謝罪公文書をPDF化して原告サイトにアップロードしてもかまわないという高慢な姿勢(被害者である原告に手間をかけさせても平気な姿勢)をみせていた。
本件謝罪措置に関する被告職員の姿勢も極めて謝罪に消極的であって,被告職員の事後の対応は,法令遵守精神を欠いた違法なものであって不法行為を構成する。原告は,この不法行為により多大の精神的苦痛を受けた。

2 原告が撮影するきのこの写真は,営業媒体(雑誌やテレビ番組)で使用する場合の使用料が1年・1枚当たり3万円程度であるから,本件写真及び本件イラストの9年間の使用許諾料は合計60万円を下回らない。

3 被告職員の不法行為(本件転載行為及び事後の対応に関する不法行為)と相当因果関係に立つ慰藉料及び弁護士費用の合計は40万円を下らない。

【争点に関する被告の主張】

1 被告職員の事後の対応に民事上の賠償責任を発生させるような違法なものはない。

2 本件写真は,著作物であるとしても,自然環境で自生する植物の写真であって,その希少性,創作性がそれほど高いとはいえないから,適正妥当な使用許諾料が,原告主張のような高額なものとはなりえない。特に,ヒカゲシビレタケは,比較的身近に発生し,誤ってこれを発見し食する人もおり,写真の被写体としても,極めて珍しいというほどのものではない。

写真の著作物やイラストの使用許諾料の一般的な相場に照らせば,本件写真の使用許諾料としては15万6000円,本件イラストの使用許諾料としては2万6000円が最高限度額というべきである。

また,損害の認定に際しては,本件ページが公共目的のものであり,本件転載行為も公共目的でされたことが考慮されるべきである。

争点1に対する当裁判所の判断

1 本件転載行為は,著作権侵害であると同時に,本件写真及び本件イラストに関する著作者人格権(氏名表示権)を侵害しているものと思われ,原告は,著作権法115条に基づき,被告に対し,本件写真及び本件イラストの著作者であることを確保し,著作者の名誉・声望を回復するための適切な措置の履行を求めることができることになる。

そして,地方公共団体は,通常,法律上の要請がないのに,職制上の職名を付して正式の謝罪措置をとることなどないと考えられるから,本件謝罪措置は,著作権法115条所定の措置としてされたものと解される。

2 本件謝罪措置は,謝罪文の管理課ホームページでの掲載期間が,本件転載行為の継続期間と比較していささか短すぎるのではないかとも思われるが,その文面は著作者人格権の侵害を回復するものとして適切なものであること,被告側では,原告サイトで本件謝罪文やPDF化した本件謝罪公文書を掲載して構わないとしていることに照らせば,侵害された著作者人格権の回復の措置として,一応,適当なものと評価することができる。

3 本件謝罪措置以外についてみても,被告職員の行動は,すべて,事実の確認と本件謝罪措置に向けられたものと考えられるが,それら行動に違法な点があったことを証拠によって認定することは困難である。

4 したがって,被告職員の事後の対応が不法行為であることを理由とする原告の請求は理由がない。

争点2に対する当裁判所の判断

1 本件写真の著作物性について

(1) 本件写真が著作権法10条所定の写真の著作物に該当することは争いがないが,被告は,その創作性の程度が高くないと主張するので,最初に,この点について検討する。

(2) 

① ミナミシビレタケは,日本では石垣島(八重山諸島)以南にしか分布しておらず,その写真さえも珍しい,

② 原告は,平成10年2月,石垣島まで赴いてミナミシビレタケを探して歩きまわり,本件ミナミシビレタケ写真を撮影した,

③ インターネットで検索しても,本件ミナミシビレタケ写真以外にミナミシビレタケの写真を見付けることが困難な状況がある,

④ ヒカゲシビレタケは本州に広く分布している毒きのこであるが,傘が開いた状態のヒカゲシビレタケが生えている時期と場所を突き止めることは困難であり,原告は,本件ヒカゲシビレタケ写真を撮影するのに何年も情報収集をしていた,との事実関係が認められる。

(3) 以上の事実が認められるところ,ミナミシビレタケやヒカゲシビレタケがどのような色・形のきのこであるか,それらが発生しそうな場所がどこか,被写体として適当な状態で自生する時期がいつかといった情報は,きのこに関する専門的な学究活動や取材活動を行う者しか入手し得ないものと考えられる。

したがって,それらきのこの写真は,専門知識を身に付けた人が,写真が撮れそうな時期と場所を選択した上で,実際の発生箇所を探し回って初めて撮影できるものということができる。

すなわち,本件写真は,創意工夫なしに撮影された風景写真(写真の著作物たりえない写真)とは大きく異なり,創意工夫(専門知識による考察及び一定の意図の下に投じられる時間と労力)がないと手にすることができないものであるから,写真の著作物としての創作性が高いものといわなければならない。

(4) 被告提出の乙第23号証についても,これにより認めるられる事実は,身近に発生し得るヒカゲシビレタケであっても,結局,食中毒が起き,その直後に専門家(保健所職員等)が詳しく調べるという出来事でもない限り,その写真を撮る機会に恵まれないということではないかと思われる。乙第23号証によって,本件ヒカゲシビレタケ写真の希少性・創作性に疑問を投げかけるべきではない。

2 使用許諾料に関する認定事実について

(1) 平成21年発行の雑誌に,原告作成の原稿と原告撮影の毒きのこの写真3点が掲載されたときに支払われた原稿料は13万3400円。

(2) 平成23年発行の雑誌に,原告作成の原稿が掲載されたときに支払われた原稿料は5万6000円。

(3) 平成24年1月3日,テレビ東京が放映した「日本一乱暴な相談バラエティ」という番組で,原告撮影のきのこ写真が数秒間使用されたときに支払われた使用料は3万円。

(4) 公益財団法人東京都歴史文化財団は,都立美術館等の所蔵品の写真を出版や広告に利用する場合の使用料に関する規定を公開している。
上記規定によれば,写真の使用料は,利用期間を最大1年として定められており,1年を超えて利用する場合は再度の許諾が必要とされている。そして,ホームページに掲載するなどの方法で写真を1年間利用する場合の使用料は5万2500円であるが,その利用が広告としての利用であれば10万5000円となる。
ただし,写真を公共的な学術利用に供する場合には上記規定の適用がなく,利用希望者が作品の所蔵館と個別に協議して写真を用いるものとされている。

(5) 写真素材の提供を業とする大手業者の標準料金表では,インターネット上で1年間にわたり写真1枚を利用する場合の料金は4万円とされているが,利用期間が3年だと料金が6万円となり,利用期間が5年だと料金が8万円となる(いずれの金額も税別)。この標準料金表には6年以上の長期利用に関する料金の記載がない。

3 本件写真及び本件イラストの使用許諾料について

上記2に認定の事実関係を総合すれば,原告の著作物をインターネットのホームページに掲載することに対する許諾の対価は,本件写真について1枚当たり3万円,本件イラストについて1万5000円と推認するのが相当であり,ホームページで継続利用することに対する対価は,本件写真について1枚1年当たり1万円(9年で9万円),本件イラストについて1年当たり当たり5000円(9年で4万5000円)と推認するのが相当である。

したがって,ホームページに9年間本件写真及び本件イラストを掲載することを申し込んできた場合に,原告が得たであろう使用許諾料の総額は30万円と認定すべきであり,著作権法114条3項により,これが被告が賠償すべき損害となる。

なお,被告は,本件転載行為が公共目的であったことを考慮して損害の認定がされるべきであると主張するので,最後に,この点についても検討するに,もし,被告が,事前に,利用目的を説明し,原告の承諾を得て転載している旨を付記して転載すると断った上で,本件写真の転載の許諾を求めたとすれば,もっと低い対価で(場合によっては無償で)転載の承諾が得られた可能性があったことは否定できない。

しかし,著作権法114条3項は,損害を推定する規定ではなく,損害を法定する規定である。

同条の規定の趣旨に照らせば,写真等の無断転載による損害を認定する際,転載の動機が公共目的であったとの事情から直ちに使用許諾料を低く認定することは適切ではない。

4 その他の損害について

弁論の全趣旨によれば,原告は,本件著作権侵害による損害の賠償を求めるため,原告訴訟代理人弁護士に有償で訴訟委任し,本件訴訟の提起及び追行をした事実が認められるところ,本件著作権侵害と相当因果関係に立つ弁護士費用の額は10万円と認めるのが相当である。

本件の場合,本件謝罪措置と著作権侵害による経済的損失のてん補をしても,なお別途の金銭賠償によって償う必要がある無形損害が原告に生じたとまではいえないから,原告の慰藉料請求は理由がない。

第6 結論

よって,本件請求は主文1項の限度で理由があるものとして認容し,その余を失当として棄却し,訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条,64条を,仮執行宣言につき同法259条を適用して,主文のとおり判決する。