9月19日の判決 DVで再度の退去命令が認められた事例

福岡高等裁判所平成25年9月19日決定

考察

DV被害のとき,裁判所に保護命令を求めますが,保護命令には,次の5種類があります。
なお,(3)の子への接近禁止命令,(4)の親族等への接近禁止命令,(5)の電話等禁止命令は,必要な場面に応じて被害者本人への接近禁止命令の実効性を確保する付随的な制度ですから,単独で発令することはできず,申立人に対する接近禁止命令が同時に出る場合か,既に出ている場合のみ発令されます。

(1)
6か月間,申立人の身辺につきまとったり,申立人の住居(同居する住居は除く。)や勤務先等の付近をうろつくことを禁止する命令です。

(2) 退去命令
申立人と相手方とが同居している場合で,申立人が同居する住居から引越しをする準備等のために,相手方に対して,2か月間家から出ていくことを命じ,かつ同期間その家の付近をうろつくことを禁止する命令です。

(3) 子への接近禁止命令
子を幼稚園から連れ去られるなど子に関して申立人が相手方に会わざるを得なくなる状態を防ぐため必要があると認められるときに,6か月間,申立人と同居している子の身辺につきまとったり,住居や学校等その通常いる場所の付近をうろつくことを禁止する命令です。
なお,ここでいう「子」とは,被害者である申立人と同居中の成年に達しない子を指し,別居中又は成年の子は,(4)の親族に該当します。

(4) 親族等への接近禁止命令
相手方が申立人の実家など密接な関係にある親族等の住居に押し掛けて暴れるなどその親族等に関して申立人が相手方に会わざるを得なくなる状態を防ぐため必要があると認められるときに,6か月間,その親族等の身辺につきまとったり,住居(その親族等が相手方と同居する住居は除く。)や勤務先等の付近をうろつくことを禁止する命令です。

(5) 電話等禁止命令
6か月間,相手方から申立人に対する面会の要求,深夜の電話やFAX送信,メール送信など一定の迷惑行為を禁止する命令です。

保護命令に違反すると,違反した者には,1年以下の懲役又は100万円以下の罰金が科せられます。

事案の概要

本件は,退去命令が出されても退去しない相手方に対して,被害者が再度退去命令を求めた事案です。

原決定は,被害者が同居する住居から引越しをしないことについて,「被害者がその責めに帰することのできない事由」(法一八条一項本文)があると認めることはできないとして,これを却下しましたが,本決定は原決定を覆し,再度の退去命令が発令されました。

先日,シェルターにいる方の話を聞きましたが,シェルターは満室状況のようで,かなりの数のDV被害があると推測がつきます。

DV被害にお悩みの方は,早めに警察にご相談下さい。

当裁判所の判断
 
原審が,本件申立てが再度の申立てであり,その要件である転居を完了できないでいたことについて,「被害者がその責めに帰することのできない事由」(法一八条一項本文)があると認めることはできないこと等を理由として,本件申立てを却下したため,抗告人が,これを不服として,即時抗告をした。

一件記録によれば,被害者は,

躁うつ病

を患い,平成25年3月18日には,大分県から,

障害等級二級

「日常生活が著しい制限を受けるか,又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの」(精神保健及び精神障害者福祉に関する法律施行令六条三項)と認定され,障害者手帳の交付を受けたこと,被害者は,その日常生活において

常時援助を必要

とし,

憂うつ気分,精神運動制止,不安,焦燥感,不眠,希死念慮などの抑うつ症状

と,多弁,多動,高揚気分などの躁症状

が交代して出現していること,被害者は,前件退去命令発令後しばらくして肩書住所地に戻ったが,頼れる親族等がいないため,大分県婦人相談所及び福祉施設関係者(以下「福祉関係者」という。)の支援を得て,

転居先の検討

をしたこと,被害者は,グループホームへの入居を希望し,福祉関係者も被害者の躁うつ病の状態等の心身の状況から,単身,民間の賃貸住宅で生活することは困難であり,

グループホームへの入居

が望ましいと考え,該当する施設を探したこと,しかし,保証人を不要とし,直ちに入居できる施設が容易には見つからず,前件退去命令の効力が生じた日から起算して2か月を経過した平成25年5月になって,入居の許可が得られる施設が見つかり,原則として

男性のみが入居する施設

ではあったものの,被害者は同施設への入居を希望し,入居の準備が整ったこと,被害者が転居の準備を行うには相当程度の時間を要することが認められる。

この事実関係の下で,本件申立てについて,被害者に帰責性がなかったかをみると,抗告人がグループホームへの入居を希望し,該当する施設を探し,入居の許可を得るまでに2か月以上の時間を要したことは,抗告人の心身の状況からすれば,帰責性がなかったものと認めるのが相当である。

なお,相手方は,住居に当面接近しないことを誓っているが,一件記録によれば,相手方には,保護命令に反した行動があるので,再度,退去命令を発令する必要性があるといえる。

次に,相手方は,退去命令により,余所での生活を余儀なくされることとなるが,その収入や稼働状況,生活状況等に照らして,特に著しい支障を生ずる(法一八条一項ただし書)とは認め難い。

そして,上記のとおり,相手方には保護命令に反した行動があるので,法一〇条一項に定める「配偶者からの更なる身体に対する暴力」により「その生命又は身体に重大な危害を受けるおそれが大きい」ことも認められる。

以上によれば,本件申立ては,理由があると認めるのが相当である。

よって,本件抗告は理由があるから,これを却下した原決定を取り消した上,本件保護命令を発令することとする。