9月1日の判決 一週間の平均労働時間は3時間未満で他社の代表取締役であった者は雇用保険法上の被保険者

甲府簡易裁判所平成22年9月1日判決

考察

雇用保険が適用となる「雇用される労働者」とは,雇用関係によって得られる収入によって生活する者をいいます。
したがって,臨時内職的に就労する方は被保険者とはなりません。

パートタイム労働者については,
(1) 31日以上引き続き雇用されることが見込まれる者であること。
(2) 1週間の所定労働時間が20時間以上であること。
が必要です。

事案の概要

被告に雇用されていた原告が,被告が原告を被保険者とする雇用保険の加入手続を怠ったことにより損害を被ったとして,被告に対し損害賠償を求めた事案。

裁判所の判断

事実関係

原告は,平成4年5月,株式会社Aを設立し,その代表取締役となった。
株式会社Aは,その後,有限会社Aとなり,原告はその取締役となった。
原告は,平成5年3月22日,技術士(建設部門)として登録された。
原告は,被告に,平成18年9月21日,下記の条件で雇用された。
本件雇用契約は,平成20年6月から,雇用条件のうちの賃金について,登録維持に対して月額15万円と変更された。
原告は,平成21年3月29日,高血圧性右脳内出血を発症した。
原告は,被告と,平成21年4月1日,賃金について,登録維持に対して月額15万円,出勤要請に対して日額2万円と変更したうえで,雇用契約を締結した。
原告と被告との間で,平成21年10月20日,勤務条件等確認書が作成された。
原告は,平成22年3月31日,被告を退職した。

原告が雇用保険法の被保険者に当たるか。

被保険者の定義

雇用保険法において「被保険者」とは,雇用保険の適用事業に雇用される労働者であって,第6条各号に掲げる「被保険者とならない者」以外の者のことをいう。(同法4条1項)

短時間就労者の適用除外

ア 短時間就労者
短時間就労者(その者の1週間の所定労働時間が,同一の適用事業に雇用される通常の労働者の1週間の所定労働時間よりも短く,かつ,40時間未満である者をいう。)については,その者の労働時間,賃金その他の労働条件が就業規則(就業規則の作成義務が課されていない事業所にあっては,それに準ずる規程等),雇用契約書,雇入通知書等に明確に定められていると認められる場合であって,次のいずれにも該当するときに限り,被保険者として取扱い,これに該当しない場合は,原則として,被保険者として取扱わないこととされている。
(ア) 1週間の所定労働時間が20時間以上であること
(イ) 反復継続して就労する者であること

イ 原告の労働時間

原告が,平成18年9月21日に被告に雇用されてから同22年3月31日に退職するまでの約3年6か月の間に,出勤した日数は,下記のとおり合計53日であるから,1年あたりの出勤日数は約15日(53日÷3.5年=15.14日)となる。
平成18年    6日
平成19年   15日
平成20年   16日
平成21年 11.5日
平成22年  4.5日

原告の勤務時間は午前8時30分から午後5時30分までであるから,原告の1週間の平均労働時間は,多めに見積もったとしても3時間に満たないことがわかる。

1日9時間×15日÷52週(1年)=2.6時間

ウ 適用の有無

原告については,前記ア(ア)の要件に該当せず,雇用保険法における被保険者にあたらないものと考えられる。

代表取締役の適用除外

株式会社の代表取締役は,「雇用される労働者」にはあたらないから,雇用保険法における被保険者とはならない。
原告が被告に雇用された平成18年当時,原告は株式会社Aの代表取締役であった。
したがって,原告は,この点においても,雇用保険法における被保険者にあたらないものと考えられる。

雇用保険の加入の必要性

原告は雇用保険法における被保険者にあたらないと考えられるから,被告が原告について雇用保険への加入手続をする必要性があったとはいえない。

不法行為の成否

被告が原告に係る雇用保険への加入手続をする必要がない以上,被告が加入手続を怠ったとはいえないから,被告には不法行為の要件である故意又は過失が認められず,被告の原告に対する不法行為は成立しないものというべきである。