8月4日の判決。債務不存在確認の確定判決後に作成された債務承認及債務弁済公正証書の効力

東京地方裁判所平成16年8月4日判決

前提事実

1 公正証書の存在

原告は被告との間で,平成15年3月12日,債務弁済(一部免除)契約公正証書を作成した。

2 確定判決の存在

原告は,かつて,本件被告を相手方として本件債務と同一名義の債務について債務不存在確認等を求める訴えを提起し,勝訴判決を得て確定した。

3 未払の事実

原告は被告に対し,本件債務について支払をしていない。

以上の前提事実を元に,公正証書の債務について,原告が被告を相手取り,再度債務不存在の訴訟を提起した。

争点

1 公正証書の債務の存否の判断について,本件確定判決の既判力が及んでいるか。

2 公正証書の債務の承認及び弁済契約が,被告の詐欺に基づくものといえるか。

3 公正証書の債務の承認及び弁済契約が,原告の心裡留保,あるいは原・被告間の通謀虚偽により無効となるか。

裁判所の判断

公正証書の債務と確定判決で不存在が確認された債務は,債務の内容は同一である。

もっとも,公正証書の債務が,確定判決の口頭弁論終結時以降に生じた新たな事由によって発生したものであれば,本訴と本件確定判決とは訴訟物を異にすることになるから,その新事由には確定判決の既判力(遮断効)は及ばず,同判決の既判力を受ける被告も,その新事由を主張して本件各債務の存否について争うことができることになる。

しかるに,被告は,債務弁済(一部免除)契約公正証書記載の債務は,債務不存在確認等請求事件で債務不存在確認の対象とされた債務と同一であって,公正証書作成時において,新たに債務負担したものではない。と陳述し,また,本件第1回弁論準備手続期日においても同趣旨の陳述を行っている(被告の平成16年5月7日付け準備書面第2の1)。

そうすると,公正証書の債務は,本件確定判決の口頭弁論終結時以降に生じた新たな事由によって発生したものではなく,同判決によって不存在が確認された債務と同一のものといえるから,本訴と確定判決の訴訟物に異なるところはないということになる。

かかる事情を前提とすれば,公正証書の作成経過について争点2,3のような争いがあることを前提にしても,法的には確定判決の既判力が本訴に及ぶことになるから,後訴である本訴の判断も,本件債務は存在しないという確定判決の判断に拘束されることになるというべきである。

この点,被告は,本件公正証書に記された本件各債務の承認及び弁済契約は原告の意思に基づくものである旨主張する。

しかし,公正証書は,本件債務について原告が債務承認し,原,被告間においてその弁済契約を締結したことを公証するもので,いわば原告及び被告が本件確定判決と矛盾する意思表示ないし合意を行ったことが記載されたものといえるところ,既判力は訴訟上,公法上の拘束力であるから,当事者が確定判決の既判力を無視する内容の意思表示ないし合意をしたとしても無効と解すべきである。

それゆえ,被告主張の事情をもって本件確定判決の拘束力を免れることにはならない。

考察

被告は「原告から,確定判決は,虚偽の主張,立証により勝訴したものであるとして謝罪され,同判決で不存在が確認された債務についても支払うとの申し出を受けたため,後日,原告との間で本件公正証書を作成したものであり,原告は確定判決を騙取したものであると認めている。と主張するが,このような事情は,本来的には再審の訴えにおいて主張,判断されるべきものであって,被告の上記主張も本訴に本件確定判決の既判力が及んでいるとの判断を否定する根拠とはなり得ないので,オーソドックスな判断といえるでしょう。

裁判