8月30日の判決 住民票を不正に入手してはいけません。

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東京地方裁判所平成25年8月30日判決

 

考察

本件は取材過程において行政書士を通じて住民票を不正に入手した事件ですが,マスコミから頼まれて戸籍を不正入手した著名な弁護士が業務停止処分を受けたこともありました。
このようなご依頼は一切受けませんので,悪しからず❗️

 

事案の概要

グリコ森永事件の犯人呼ばわりされた原告が,出版社に対して名誉毀損の損害賠償請求をした事件で,出版社の社員が取材の過程で,正当な理由がないのに,行政書士に原告住民票及び除票の各写しを入手させたことがプライバシー侵害として,出版社に対する使用者責任が認められた事案。

 

裁判所の判断

住民票等の不正取得によるプライバシー侵害の成否について

編集部においては,本件連載記事が掲載されるより前から,取材のために取材対象者の住民票,戸籍及び戸籍附票を入手することを禁止していた。

本件連載記事の編集長は,これらの書類の取得行為の禁止について注意喚起をしており,社員もこのことを認識していた。

原告の現在の住所については,被告が,原告への印税の支払の際に税務署に提出する支払調書に記載があるため,改めて調べる必要のある情報ではなかった。

大阪府羽曳野市役所に,行政書士名義で作成された住民票等に係る職務上請求書(住民基本台帳法12条の3参照)が提出され,申請者に原告住民票等が交付された。

これらには,原告及びその世帯全員分の氏名,生年月日,本籍,住民となった年月日及び住所だけでなく,一の市町村の区域内において新たに住所を変更した者についてはその住所を定めた年月日,新たに市町村の区域内に住所を定めた者についてはその住所を定めた旨の届出の年月日及び従前の住所等が記載されている。

被告らは本件連載記事第2部の連載を開始しており,その記事中に,実家のある地域や,その後の居住地等について記載した。

原告は,記事を読むと,すぐに大阪にいる毎日新聞の顧問を務める弁護士のところへ相談に行き,その弁護士から,本件連載記事が原告らに対する名誉毀損を構成するとの心証を得た。

そこで,原告は,,被告の局長,発行人を務めていたR局長と面談し,本件連載記事を掲載したことについて,被告としてどのように対処するつもりなのかを強く問いただした。

原告は,被告らが原告の過去の住所について詳しいことに不信感を抱き,羽曳野市役所を訪れて,原告の住民票等の取得を請求した者がいないかを確認したところ,前記行政書士名義で作成された職務上請求書を用いて原告の住民票等が取得されていたことが判明した。

行政書士は名古屋市内の区役所などに虚偽の申請理由を記載した請求書を提出し,愛知県警察署幹部の戸籍や住民票を不正に取得したとして,偽造有印私文書行使や戸籍法違反などの疑いで逮捕された。

こういった住民票の不正取得の依頼は,取得希望者から探偵事務所等に持ち込まれ,そこから情報屋を経由して,T探偵事務所に集約され,同事務所から最終的にS事務所に持ち込まれる仕組みになっていた。

仮に,住民票等の取得が本件連載記事の掲載に際しての取材目的でされたものであるとしても,不正な住民票の取得は住民基本台帳法に違反する行為であり,その手段の相当性を認めることができない。

そうであるからこそ,被告Y2は,編集長として,取材対象者の住民票等の取得禁止を周知していたものと考えられる。

このような違法な手段を用いてもなお原告の住民票等の取得が必要であったなどの高度の必要性を被告が主張・立証しているわけでもない。そうすると,住民票等取得の違法性を阻却することはできない。

住民票等の取得行為は,被告が発行する週刊誌に掲載する本件掲載記事のための取材の一環としてされたものであって,外形的には,被告の事業の執行について行われたものと認められるから,被告はその使用者責任(民法715条)を免れない。