8月11日の判決 土地賃貸借契約の更新拒絶に正当理由が認められなかった事例

 

東京地方裁判所平成18年8月11日判決

 

 

 

事案の概要

 

原告が,被告との間で締結していた建物所有目的の土地賃貸借契約について,立退料300万円を提供したうえで契約の更新を拒絶し,賃貸借期間満了による土地賃貸借契約終了に基づき,被告に対して建物を収去して土地を明け渡すことを求めた事案。

 

原告の妻には弟夫婦がいるが,弟夫婦は現在他の借地権付き建物で理髪業を営んでいるが,将来,理髪業を廃業し,本件土地上に小さな平家建の居宅を建築して年金で生活することを切望している。

 

被告は,本件建物の大規模修繕工事をしたばかりなので更新拒絶を争う姿勢を示した。

 

原告は被告を相手方として300万円の立退料の支払と引換えに本件建物の収去と本件土地の明渡しを求める調停を申し立てた。しかし,調停は不成立に終わった。

 

そこで,本訴。

 

 

 

判 決

 

請求棄却

 

弟夫婦が本件土地上に建物を建築することについて具体的な話は全く進んでおらず,本件契約期間が満了してから本件口頭弁論終結までに2年半近く経過していることを考慮すると,仮に弟夫婦が本件土地上に建物を建築する時期が来るとしても近い将来実現するとは考え難い。

 

そして,

弟夫婦が現時点で借地権付き建物を所有していること,

 

本件土地上に居宅を建築することになると借地権付き建物を処分せざるを得ないと推認されること,

 

弟は70歳を超えているが現実に理髪店の営業を続けていること,

 

弟が本件土地上に建物を建築するには纏まった建築資金が必要となるにもかかわらず,理髪店を廃業した場合にどれだけの収入があって生活費をまかなえるか重要な点について,原告との間で綿密な検討がなされたことが窺えないこと,

 

本件土地には駐車場スペースがあるので,この一部に建築することは十分可能であること,

 

原告は駐車場収入が減少することを理由にかかる提案に反対するが,駐車場の収入がいくら減額になって原告の生活がどのように困難となるか具体的な資料に基づく収支予測を証拠として提出しておらず,原告の主張の裏付けを欠くこと,

 

原告が考える弟に対する援助という目的を達成するためには,弟に対して原告が所有する建物を低額の賃料で賃貸すれば,弟にとって高額な建物新築費用が不要となる点で現実的であるが,本件借地契約の存続期間満了時から原告所有の共同住宅には空き室が存在していたにもかかわらず,借地にこだわり借家という形式について全く検討した痕跡がないこと

 

等を考慮すると,原告が本件土地を使用する必要性は極めて低いと認めざるを得ない。

 

他方,被告も,本件建物以外に借地権付きであるとはいえ店舗を所有しており,店舗の2階はアパートとして賃貸しているから,アパートの賃借人から明渡しを受けて自らが居住することも可能であり,本件土地を使用する必要性が極めて高いわけではない。

 

しかし,被告は,本件建物を長期間にわたり現実に被告夫婦と長女及び孫の4人の住居として使用しており,本件土地を使用する必要性が乏しいとまではいえない。

 

被告が長女及び孫と同居したことについては,長女の夫の勤務先が倒産し失業したことがきっかけとなって夫婦仲が不和となり別居して長女が実家に戻ったことが認められ,被告が長女らに対して住む場所を提供することも社会通念上やむを得ず,同居時期も原告が本件借地契約の更新を拒絶する意思を表明するよりも前のことであり,更新拒絶の通知があった後になって長女と孫を本件建物に招き入れたものではない。

 

原告は,正当理由を補完するために立退料300万円を提供することを申し入れている。本件土地の固定資産評価額や本件土地が囲繞地であること,本件建物が2度にわたり増改築を経ているとはいえ古い建物であること等に照らすと,決して少額であるとはいえない金額である。

 

しかし,立退料は,あくまでも正当理由を補完するためのものであり,正当理由が極めて乏しい場合には,いかに高額の立退料を提供しようとも,立退料の提供をもって正当理由があると認めることはできない。

 

本件では,原告の正当理由は極めて乏しいから,客観的にみれば十分な額の立退料を提供したとしても,そのことによって正当理由があったと認めることはできない。

 

従って,原告は,本件借地契約の更新拒絶を通知し,あるいは仮に被告が本件借地契約の期間満了後も本件土地の利用を継続したことに対して,速やかに異議を述べたとしても,300万円の立退料の提供にもかかわらず正当理由を備えたと認められないから,本件借地契約の更新を拒絶することはできない。

 

 

 

考 察

 

立退料を提供したとしても,そもそも更新拒絶の正当理由がなければ,明け渡しはみとめられません。

 

いま抱えている訴訟の大家は,そもそも更新拒絶の正当理由はないし,立退料すら提示しない。

 

更新拒絶が認められると思っているのかね?

 

家