8月13日の判決 元グラビアアイドルと差止請求

東京地方裁判所平成21年8月13日決定

事案の概要

本件はストリップショーに出演した元グラビアアイドルが,元グラビアアイドルの裸体を盗撮した写真を雑誌に掲載しようとした出版社に対して,掲載の差止を求めた事案である。

元グラビアアイドルは,劇場側が観客に対し,カメラ・ビデオカメラなどの撮影機・録音機の持ち込みや劇場内での撮影行為を禁じ,盗撮行為が発覚した場合には撮影機材の没収,警察への通報等の対応をとる旨を劇場内に掲げ,観客の入場に際しては所持品検査を行い,撮影行為が厳格に禁止していたことから,裸体となった姿が写真やビデオテープなどの記録媒体によって一般に公開される恐れはないとの条件のもとで,あくまでも観客に対してのみ自己の裸体を見せるだけという前提でストリップショーに出演した。

ところが,何者かが盗撮行為に及び,下着姿や乳房を露出した姿の元グラビアアイドルを写真に撮影した。

そして,出版社がこれらの写真を雑誌に掲載して発行した。

裁判所の判断

人は,みだりに自己の容姿を撮影されないことについて法律上保護されるべき人格的利益を有し,また,自己の容姿を撮影された写真をみだりに公表されない人格的利益も有しており,このような人格的利益を違法に侵害された者は,人格権としての肖像権に基づき,加害者に対し,現に行われている侵害行為を排除し,又は将来生ずべき侵害を予防するため,侵害行為の差し止めを求めることができる。

とりわけ,人の裸体を撮影した写真が一般に公表されて公衆の目に触れることになった場合には,被撮影者の羞恥心が著しく害され,これを事後的な金銭賠償で回復することは著しく困難である。したがって,人の裸体を撮影すること,また,人の裸体が撮影された写真を公表することは,被撮影者の同意があるなど,特段の事情がない限り許されず,被撮影者は,人格権としての肖像権に基づき,撮影された裸体の写真が公表されようとする場合には,これを事前に差止めすることができるものと解するのが相当である。

劇場側は,撮影機器の持込みや劇場内での撮影行為を禁止しており,殊に元グラビアアイドルの出演期間中は,入場する観客に対して所持品検査を行うなど,盗撮行為を防止するために特に厳格な体制をとっていた。

元グラビアアイドルは,当初は公衆に裸体を見せることに抵抗感があったものの,劇場側で撮影行為が厳格に禁止されており,裸体となった姿が写真やビデオテープなどの記録媒体によって一般に公開されるおそれはないとの条件下で,あくまで観客に対してのみ自己の裸体を見せるだけであるという前提でストリップショーに出演したことが一応認められる。

この点からすれば,元グラビアアイドルが劇場でのストリップショー出演中に自己の容姿を写真等に撮影されることを明示的にも黙示的にも同意していなかったのは明らかというべきであり,元グラビアアイドルの裸体を撮影し,撮影された写真を公表することについて,これを正当化するに足りる特段の事情は認められない。

したがって,撮影行為が禁止されていた劇場内で元グラビアアイドルの容姿を盗撮し,盗撮した写真を出版する図書に掲載しようとする行為は,元グラビアアイドルの人格的利益を違法に侵害するものであるというべきである。

そうだとすると,元グラビアアイドルは,出版社に対して,人格権としての肖像権に基づき,劇場内において盗撮された元グラビアアイドルを被写体とする写真を掲載しようとする行為を差し止めることができるものと認めるのが相当である。

これに対し,出版社は,元グラビアアイドルはだれもが立ち入ることができる公共的スペースである劇場の舞台で,その公的生活たる演技を自らの意思で不特定多数の観客に披露しているものであるから,戊田座劇場内で写真撮影が禁止されているとしても,観客が劇場内で写真撮影をすることが直ちに違法となるものではなく,また,出版社がその写真を入手してこれを記事に掲載することが違法となるものでもない旨主張する。

しかし,劇場は,入場料を支払った観客のみが入場でき,しかも,劇場内での写真撮影が厳格に禁止されていたことが認められるのであり,このような劇場内を全くの公共的なスペースであるということはできない。

元グラビアアイドルは,劇場内での写真撮影が厳格に禁止されており,裸体となった姿が一般に流出するおそれがないからこそ,ストリップショーに出演することを決意したこと,劇場内において撮影機器の持込みや撮影行為が禁止されていることは掲示物や場内放送等により観客に対して徹底的に周知されていたことなどからすれば,ストリップショー出演中の元グラビアアイドルの容姿を盗撮する行為は,元グラビアアイドルの意思に明確に反してその容姿を撮影するものとして,元グラビアアイドルの人格的利益を違法に侵害するものと認めるのが相当である。

また,そのように違法に撮影された写真を出版社がその出版する図書に元グラビアアイドルの同意を得ることなく掲載する行為も,新たな人格的利益の侵害状態を作出する行為であると認められ,同様に違法性を帯びるものというべきである。

保全の必要性

女性にとって自己の裸体を写した写真を一般に公表されたくないと考えるのは当然であるところ,出版社がその出版する図書に本件各写真を掲載すれば,これが間もなく一般社会に広く流通して公衆の目に触れるものとなり,元グラビアアイドルの羞恥心を著しく害する結果となることは容易に推測することができ,これを事後的な金銭賠償で回復することは極めて困難である。

よって,出版社がその出版する図書に本件各写真を掲載することになれば,元グラビアアイドルは,これにより重大にして著しく回復困難な損害を被るおそれがあるというベきである。

出版社は,原決定は事前抑制の対象となる出版物,掲載を禁止する写真,掲載の方法・目的・態様等を何ら特定していない包括的抽象的なものであって,表現の自由を制限する手段としては不相当であり,報道・出版の自由を保障した憲法21条1項に違反するものであると主張する。

報道・出版の自由を保障した憲法21条1項は,民主的国家の礎となる基本的人権の一つであり,これを尊重していくことが必要であることはいうまでもない。

ところが,出版社がその出版する図書に元グラビアアイドルの承諾なく盗撮した写真を掲載した記事を載せることは,専ら性的関心に応えることを主たる目的とするものであり,およそ,憲法21条1項の定める出版の自由の保護の名に値しない行為というほかはない。

したがって,出版社の上記主張は失当であり,これを採用することはできない。

結論

以上によれば,本件仮処分命令の申立ては理由があり,これを認容した原決定は相当である。

考察

スマホで撮影した写真や動画をFacebookやブログなどにUPして,簡単に公衆の面前に触れさせることができる世の中となりました。

これに伴い,他人の羞恥心を煽るような写真もUPされるようになり,規範意識というハードルがますます低くなってきております。

写真が一たびネットに出回れば,もはや削除することはできませんので,写真をUPする際には,十分に気を付けましょう!

撮影禁止