8月26日の判決 ネットの誹謗中傷の犯人さがし

東京地方裁判所平成25年8月26日判決

ネットで誹謗中傷されたときの犯人さがしの第一歩

判示事項

被告は,原告に対し,誹謗中傷投稿記事の投稿に用いられたIPアドレスを使用してURLに接続した者の氏名又は名称,住所又は所在地及び電子メールアドレスを開示せよ。

事案の概要

原告は,特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律4条1項に基づき,インターネット掲示板への投稿について,経由プロバイダである被告に対し,発信者情報の開示を求めた。

請求の根拠である法4条1項は,インターネットによる情報の流通によって自己の権利が侵害されたとする者は,次の①,②のいずれにも該当するときに限り,インターネットサービスプロバイダに対し,当該プロバイダが保有する当該権利の侵害に係る発信者の氏名,住所等の開示を請求することができると定める。

① 当該権利を侵害したとする情報(侵害情報)の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるとき。

② 当該発信者情報が当該開示の請求をする者の損害賠償請求権の行使のために必要である場合その他発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるとき。

争点

①の要件:権利侵害の明白性」の有無。

前提事実

インターネットの電子掲示板内のスレッドに,原告の社会的評価を低下させる投稿があげられた。

投稿の内容

「社長ってあのアンポンタンでしょ 自分の会社で何を作れるか知らないし どんなレベルかも知らない」

裁判所の判断

①原告の社長が,原告が製造できる製品及びその品質等を知らないという事実を摘示しているものと評価することができ,そのような事実摘示によって,原告の経営のトップである社長が,原告が何を製造しているか等の事実さえ把握しておらず,原告は経営上問題のある会社であるという印象を与えることになり,原告の社会的評価を低下させるものと認められる。

投稿の内容

「日々,入社してくるヤツは 社会不適合なヤツら 言葉も満足に発せないようなヤツや 字も満足に書けないヤツ どこの会社も面接始まる前に 落されているだろうヤツらを 採用している」

裁判所の判断

②原告が,社会不適合とされている人物,言葉を満足に発することや,字を満足に書くことができない人物,又は,他のどの会社も面接が開始される前に不採用と決定するような人物を採用しているという事実を摘示しているものと原告は主張するが,このような表現は,表現方法それ自体から,具体的な事実として摘示するのではなく誇張して表現していることが明らかであるから,文字通り原告主張の上記事実を摘示しているとまでは評価できない。しかし,少なくとも一般的抽象的に,原告が,能力が著しく低い者を殊更に採用しており,従業員のレベルが極めて低いという事実を摘示しているものと評価することはでき,このような事実を摘示することによって,原告の社会的評価を低下させることが明らかである。

投稿の内容

「誰でも出来る仕事だと思っての採用なのか知らんけど 職場は混乱する一方! 物作りをナメテル!」

裁判所の判断

③原告が上記のとおり能力が著しく低い従業員を殊更に採用している結果,職場が混乱しているという事実を摘示するものであり,原告の職場が混乱し,秩序だった適正な業務が行われていないという印象を与え,原告の社会的評価を著しく低下させることが明らかである。

そして,投稿の冒頭にいきなり「社長ってあのアンポンタンでしょ」などと侮辱的な表現を用いていることからすれば,社長を誹謗中傷することを通じて原告をも誹謗中傷することに主たる目的があると認めざるを得ず,主たる動機が公益を図ることにあったとはいえず,専ら公益を図る目的でされたものとは認められない。

したがって,投稿399は,摘示された事実が真実であるか否かについて検討するまでもなく,違法性阻却事由がないことが明らかであり,原告の名誉権を侵害することが明白である。

投稿の内容

「赤字の仕事をもっと赤字を増大させる工程,設備,作業員 製造の邪魔となる事しか出来ない,製造効率を下げるわけのわからないインチキ建築屋(社長の妹の旦那)稼働させるのに湯水の如く,金のかかった機械を購入した社長 あの機械(台湾製)は,これからドンドン赤字を生んでいく事となるし 富○重工もアキレてるよ 平気でス○ック違反を指示しておきながら 自分には責任ありませ~んって本○長 保身の為には嘘の報告をするグ○ープ○ーダー 糞だ~!!」

裁判所の判断

記事冒頭の「赤字の仕事をもっと赤字を増大させる工程,設備,作業員」という記述は,①原告の作業工程,設備及び作業員が,元来赤字の仕事について,更に赤字を増大させているという事実を摘示するものと評価することができ,このような事実摘示により,原告の業務形態が赤字の仕事を更に赤字にさせるものであり経済合理性を欠いているという印象を与え,原告の社会的評価を低下させることが明らかである。

続く「製造の邪魔となる事しか出来ない,製造効率を下げるわけのわからないインチキ建築屋(社長の妹の旦那)」との記述は,②原告の社長の妹の夫が,製造の邪魔になることしかできず,製造効率を下げているという事実を摘示するものと評価することができ,原告が身内の関与により製造効率を下げているという印象を与え,原告の社会的評価を低下させることが明らかである。

続く「稼働させるのに湯水の如く,金のかかった機械を購入した社長 あの機械(台湾製)は,これからドンドン赤字を生んでいく事となるし 富○重工もアキレてるよ」との記述は,③原告が,稼働させるのに膨大な経費を要する機械を購入し,当該機械の稼働によって今後も続々と赤字が生じていくという事実,及び,④そのような機械購入により原告が富士重工業株式会社からの信頼を失っているという事実を摘示したものと評価することができ,このような事実摘示により,原告の機械の購入とその稼働が経済合理性を欠き,これにより原告が重要な取引先からの信頼を欠いているという印象を与えるものであり,原告の社会的評価を低下させることが明らかである。

続く「平気でス○ック違反を指示しておきながら 自分には責任ありませ~んって本○長」との記述は,⑤原告本部長がスペック違反を指示している事実を摘示するものと評価することができ,このような事実摘示により,原告が取引先との契約に反し質の低い製品を製造しているという印象を与え,原告の社会的評価を低下させることが明らかである。

続く「保身の為には嘘の報告をするグ○ープ○ーダー 糞だ~!!」との記述は,⑥原告グループリーダーが嘘の報告をしているという事実を摘示するものであり,このような事実摘示により,原告において報告が正しくなされておらず企業としての統制がとれていないという印象を与え,原告の社会的評価を低下させることが明らかである。

そして,「インチキ建築屋(社長の妹の旦那)」,「グ○ープ○ーダー 糞だ!!」などと原告の経営陣ないし幹部従業員に対する侮辱的な表現を用いていることからすれば,原告関係者を誹謗中傷することを通じて原告をも誹謗中傷することに主たる目的があると認めざるを得ない。

したがって,仮に,原告の経営が適正を欠いていることを指摘し,経営方針等を批判することについて,一部に公益を図る意図があったとしたとしても,少なくとも主たる動機が公益を図ることにあったといえないことは明らかであり,専ら公益を図る目的でされたものとは認められない。

したがって,摘示された事実が真実であるか否かについて検討するまでもなく,違法性阻却事由がないことが明らかであり,原告の名誉権を侵害することが明白である。

投稿の内容

「Yを過大評価し過ぎだろ! ヤツがいるから潰れるんだよ 沈没する前にYは 間違いなくまた逃げ出すだろうけど 社長はじめ,嫁や妹が馬鹿なのはワカルけど 馬鹿は馬鹿なりに 少しはYを疑ってみてみろ! キッザニアの疑似体験の子供でも もっとマトモな運営するよ」

裁判所の判断

A(原告会社を知る者にとっては,業務本部長であるAを指すことが明らかである。)に問題があり会社への忠誠心にも欠ける事実,及び,原告の社長,社長の妻及び妹Bが,業務本部長Aを過大評価しているという事実を摘示するものであり,「キッザニアの疑似体験の子供でも もっとマトモな運営するよ」との発言とも相俟って,原告の社長らの人事評価が不適切であり,その経営手腕は子供以下のレベルであるという印象を与え,原告の社会的評価を著しく低下させるものである。

「社長はじめ,嫁や妹が馬鹿なのはワカルけど 馬鹿は馬鹿なりに 少しはYを疑ってみてみろ!」,「キッザニアの疑似体験の子供でも もっとマトモな運営するよ」などと述べ,原告の社長らの経営陣を「馬鹿」,「子供以下」と表現して侮辱しており,前掲各投稿と同様,原告経営陣を誹謗中傷することを通じて原告をも誹謗中傷することに主たる目的があると認めざるを得ない。

したがって,仮に,原告の人事評価が不適切であることを指摘し,経営を批判することについて,一部に公益を図る意図があったとしたとしても,少なくとも主たる動機が公益を図ることにあったといえないことは明らかであり,専ら公益を図る目的でされたものとは認められない。

結論

本件各投稿については,その投稿記事(侵害情報)の流通によって原告の権利が侵害されたことが明らかであり,名誉毀損の不法行為による損害賠償請求権の行使のために必要であるから,原告には,発信者の氏名又は名称,住所又は所在地及び電子メールアドレスの情報の開示を受けるべき正当な理由がある。

よって,被告は,法4条1項に基づき,原告に対し,本件各投稿の発信者に係る前記の発信者情報を開示すべき義務がある。

考察

このように,プロバイダに対する開示請求が認められると,次に,プロバイダから開示された契約者に対して,投稿の事実の有無について確認し,投稿者を明らかにしてもらい,その者に対して,損害賠償請求をしていく事になります。