9月24日の判決 結婚前に味見は必要!

 
 
9月24日の判決 低収入で不能だから破局?
 
 
東京地方裁判所平成22年9月24日判決 男女関係を裁判で争うと,こういう話ができてきます。
 
 
 
35歳公務員の男性にそんなこと言ったら立つ瀬ないじゃん。
女性の気持ちも分かるが,事前にお試ししとかないと。。。
親が出るとこじれるわな。

 
 
判決
 
 
1 女性は,男性に対し,551万7967円及びこれに対する平成21年1月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 
2 男性のその余の本訴請求を棄却する。
 
3 女性の反訴請求を棄却する。
 
4 訴訟費用は,本訴反訴ともに,これを5分し,その1を男性の負担とし,その余を女性の負担とする。
 
5 この判決は,1項に限り,仮に執行することができる。
 
 
 
事案の概要
 
 
本件は,婚姻予約後,結婚式を挙げたが,入籍には至らなかった男女間の紛争であるところ,本訴は,男性が女性に対し,婚姻予約及び内縁の不当破棄により,精神的・財産的損害を受けたとして,不法行為に基づき,慰謝料の請求をした事案であり,反訴は,女性が男性に対し,男性に原因のある性生活の不成立や原告の不誠実で頑迷な性格などによって家庭生活を破壊され,内縁関係の解消を余儀なくされ,精神的・財産的損害を受けたとして,不法行為に基づき,慰謝料の請求をした事案である。
 
 
 
前提事実
 
 
男性と女性は,平成19年のクリスマスパーティーで意気投合したのを契機に交際を開始して,平成20年,結納をして婚約をした。
 
男性と女性は,同年10月,結婚式を挙げ,その後,新婚旅行に行き,帰国後,新居で同居生活を開始。なお,婚姻届は,近日中に提出する予定であった。
 
男性と女性及びその両親は,同月6ないし9日ころから,夫婦の家計の収支計画を巡って,対立するようになり,女性は,同月22日以後,実家で生活するようになった。
  
その後,女性は男性に対し,男性との性生活に満足できないことを理由として男性と別れる決心をした旨記載した置き手紙を送った。
  
男性は女性に対し,平成21年1月1日,新居に用意した家具・家電器具等を持ち帰ることを求めるメールを送信した。
 
女性は,同月15日,新居内の家具・家電等のうち,女性が用意した荷物を持ち出した後,同月16日,男性に対し,女性が保管していた新居のカギを送付し,結局,男性と女性の入籍は実現しなかった。
 
 
 
当事者の主張
 
男性の主張
  
女性は,本件婚約,本件結婚式を行い,新居で男性と内縁関係を成立させていたのであるから,男性と入籍して婚姻関係を成立させ,これを維持すべき義務があった。
 
それにもかかわらず,女性は,これを怠り,男性と入籍せず,正当な理由なく本件婚約及び原告との内縁関係を破棄し,故意によって男性に損害を与えたもので,女性には,民法709条に基づき,男性に生じた損害を賠償すべき義務がある。
 
なお,女性は,男性の性的能力を問題にするが,男性は現実に性交を行っていて性交不能ではなく,これに対して,女性に不満があっても,本件婚約及び内縁関係破棄の理由にはならない。
 
また,これは,男性が,女性が期待らましていたほどの収入を得ておらず,婚姻生活において女性の希望する生活費を確保することが困難であるといった事情があっても,同様である。
 
 
 
女性の主張
 
男性と女性原・被告の家庭生活,内縁関係は,アないしウのとおりの,男性に原因のある性生活の不成立や男性の不誠実で頑迷な性格などによって破壊・解消されたもので,男性には,女性との内縁関係を破たんさせ,本件婚約に基づく婚姻の不成立を余儀なくした不法行為責任がある。
 
ア 男性と女性は,本件結婚式の日である平成20年10月以降,性行為を試みたが,正常な性行為は成立しなかった。
 
男性は,女性が本件手紙によって男性の性交能力の問題を明示しても,積極的に否定することも,弁明することもなく,自身に性交能力が欠如していることを当然のこととしている。
 
この態度からして,男性は,自身に性交能力が欠如していることを秘して,本件婚約に至ったものと考えられる。
 
イ 男性は女性に対し,同年5月,手取りで月額33ないし34万円程度の収入があり,男性の収入のみで夫婦の生活が成り立ち得るかの発言をして,女性にその旨の期待を抱かせた。
 
しかし,男性は,同年11月に作成した収支計画によれば,男性の実際の手取り額は約18万円であった上,その収支計画は不測の支出に備えた貯蓄や予備費への配慮を欠いていた。
 
更に,男性の収入だけで夫婦の生活が成り立つ旨の前言を翻し,女性の収入から双方の小遣いや女性の保険料を負担するように提案した。
 
そして,女性の父から,賞与に頼らず,月収の中で生計が成り立つようにすべきと意見されるとともに,収入や控除金,生活費等の内訳項目を示し,その具体的内容を給与明細等の資料を開示して説明するように依頼され,これを承諾していたにもかかわらず,給与明細等の資料の開示を怠り,収支は基本的に月収内に収めるべきであるとの女性の考えに対し,何ら根拠資料を示さないまま年収の中で収支が収まれば問題がないとの主張を譲らず,本件別居に至らしめた。
 
ウ 男性は女性に対し,本件別居後,その責任が女性の「実家依存症」にあるかのメールを送信した。
 
 
 
裁判所の判断
 
認定事実
 
男性と女性は,共に声楽や合唱を趣味としており,平成19年12月の合唱団のクリスマスパーティーで席が隣同士になって意気投合したのを契機に交際を開始した。
 
男性は女性に対し,平成20年1月に求婚し,女性はこれを承諾した。
 
男性は,女性の両親に対し,同月,女性との婚姻を希望することを伝え,女性の両親もこれを承諾した。
 
男性は,この際,女性の両親に,男性は年収約600万円であり,女性の収入に頼らなくても生計を立てることは十分に可能である旨説明した。
 
男性と女性は,同年4月,婚約をした。
 
男性は女性に対し,同年5月,「生活費のために仕事を続けるということはしてほしくない。」と述べ,また,給与について,女性の手取り額である月額23ないし24万円の「プラス10万円くらいもらっている。だからお金では苦労をかけないから,それは安心してほしい。」などと述べた。
 
男性と女性は,同年10月,本件結婚式を行い,同日,性交を試みた。
 
男性は,性交の経験がなく,男性にとって,それが初めての性交の試みであった。
 
その際,男性の性器は,性交可能な程度に硬直せず,性交経験を有していた女性が,男性を慰め,男性の性器に刺激を与えるなどしたが,性交を行うことはできなかった。
 
男性と女性は,その後,新婚旅行に行った。
 
男性と女性は,その間,ほぼ毎晩のように性交を試みたが,同様に性交を行うことはできなかった。
 
ただ,一度,男性の性器が朝方に自然にぼっ起していたことがあり,これを利用して男性の性器を女性の性器に挿入することには成功したが,射精に至らずに程なくして男性の性器がなえ,性交を行うことができなくなった。
 
男性は女性に対し,性交できないことに関する特段の弁明をせず,女性の気遣いに関しても,強い感謝の念や謝罪的な心情を示すことはなかった。
 
男性は女性に対し,11月,男性が作成した月間の家計の収支見通しの概算表を示した。
 
女性は,同表を見て,食費・生活雑費からなる生活費が合計3万円であること,男性の保険・年金の天引き額が合計約5万円であること,男性の給与からの天引き額が多く,残業を見込まない場合の銀行振り込み給与額が18万円程度になることに驚き,また,不測の支出に備えた貯蓄や予備費の考慮がないと感じた。
 
女性が,男性に,「これで生活できるのか。」などと尋ねると,男性は,これはたたき台である,保険料の支払は将来見直しするなどと述べた。
 
男性と女性は,新婚旅行後,初めて性交を試みた。
 
その際,男性の性器は,女性に手を添えられつつも女性の性器に挿入可能で,女性が体を動かしても,直ちに脱落しない程度には硬直した。
 
男性は,この性交によって射精に至った。
 
しかし,その際の状況は,女性においては,男性が射精に向かい,射精に至ったことが認識できないようなもので,女性には性交の実感の乏しいものであった。
 
なお,男性は,性交後に感想を尋ねたところ,女性から肯定的な発言があった旨述べるが,仮に女性が否定的な感想を抱いていても,そのまま表明することは通常考えにくく,仮に上記のような発言があっても,女性の当時の実感を反映したものとは直ちに認められない。)。
 
以後,男性と女性は,性交を試みていない。
 
女性は,男性が作成した上記家計収支見通しの概算表で,生活費が3万円とされていたことから,両親にこれを相談した。
 
男性と女性は,同月9日,女性の実家に行った。
 
男性は,女性の父から,給与・手当や生活支出等を項目としてリストアップした紙(「俸給,期末・勤勉手当明細及び共済組合(引落明細),課内支払明細の提示・確認」「残業手当…変動物,当てにしない」などの記載があり,また,「収入総額」の内訳と思われる記載には「期末・勤勉手当」は含まれておらず,これら手当について,別紙に記載があるもの。)を渡され,夫婦の生活が経済的に成り立つことを,後日説明するように求められた。
 
女性は男性に対し,同月11日,女性の両親から,生活費に毎月10万円は必要であるから,毎月10万円を男性が確保できないようなら実家に帰ってくるように言われたこと,女性の父は,今後の家計の収支に関する男性からの説明に納得できなければ,二人の婚姻届の証人欄に署名するつもりがないとしていることを伝えた。
 
女性は男性に対し,このころ,家計において本当は女性の収入もあてにしていたのではないかと尋ねたところ,男性がこれを認めたため,結婚式前の話が明白に翻されたと感じ,男性に対する不信感を抱いた。
 
男性は女性に対し,年間の収支計算を行い,毎月10万円を生活費として確保可能であることを伝え,二人は,同月22日に女性の父に,今後の家計について説明しに行くことにした。
 
なお,女性は男性に対し,女性の父が納得して婚姻届の証人にならない限り,自らも婚姻届を記入する意思のない旨述べた。
 
男性は,同月22日,女性の両親に資料を配付して今後の家計についての説明をした。
 
具体的には,男性の年収が約650万円であり,二人の個人年金・保険料を月額3ないし4万円程度にすれば,生活費(食費・被服費等)として月額10万円及び各人の各5万円の小遣いを確保できること,男性の年金・保険料を,専門家のアドバイスを受け,月額1.5ないし2万円程度まで抑えられるように見直す予定であり,既に準備を始めていること,月間では,男性の残業代を見込み,女性の保険と小遣いを女性が負担することにすれば,男性の月収で支出がまかなえること等を説明した。
 
女性の父は,男性が配った資料が,女性の父が渡した紙と異なる様式であること,ボーナス及び超過勤務手当を頼りにせず,同手当を控除した月収を基準とすべきと考えるのに年収を基準にして作成されていること,男性が資料の裏付けとなる給与明細,共済控除,その他引き落としに関する種々の通帳等を持参しなかったこと等に不満を感じた。
 
そして,男性に対し,男性のことが信用できなくなったので男性と距離を置きたい,見込みの説明ではなく現状を知りたい,年収ベースで収支が成り立っても残業代を見込まない月間ベースで収支が成立しなければ絶対破たんする,男性は情報を全部見せずに部分的に見せて自分の考えを押し通そうとしている(「かまをかける」)だけに見える,女性と相談するというが,その気はないのではないか,保険や年金について結婚準備の間に十分見直す時間があったはずなのに,なぜそれをやっていなかったのか,結局女性の給料をあてにしているだけではないか,男性は自分の給料の範囲で生活できるから大丈夫,女性は生活のために働かなくても大丈夫と言っていたが,結局口先だけではないかなどと述べた。
 
これに対し男性は,年収ベースで考えれば家計が成立する旨主張していたものの,根拠資料が必要であれば改めて持参して説明できる,月間ベースで残業代抜きで今のまま収支を合わせることはできず,支出の部分で節約するなどが必要だが,女性と相談する,年金・保険については話を始めており,見直しは年内に確実に行なう,かまをかけるつもりはなく,今回の数字に固執もしない,裏の意図はないなどと述べたが,女性の父は,「チャンスはもうない。」と応えた。
 
その間に女性自身も,家計収支は基本的に月収内で収まるようにすべきであるとの考えを示していた。
 
その後,女性や女性の両親から,男性の女性に対する態度等についての不満が述べられ,女性の父が席を外した。
 
男性と女性が,その後も口論をしていたところ,女性の母が男性に対し,「お互い少し離れて考えた方がよいのではないか」などと述べて男性の帰宅を促し,女性も,「このまま新居に戻っても笑顔でいられない。」などと述べて,女性の実家にとどまる意向を示した。
 
男性は女性に対し,共に新居に戻るように述べたが,女性はそれを拒み,男性のみが新居に帰宅した。
 
男性は,同月24日,新居にある女性のタンスの上に,女性の関係者に送付する分の写真と結婚報告状を置き,その横に「自分の一度きりの大事な人生のことです。決して一人で悩まず信頼できる友人など第3者に相談して考えるようにしてくださいね。」と記載した紙を置いた。
 
男性は女性に対し,同月25日,「元気ですか?いろいろ冷静に考えていますが… こういう状況に陥っていませんか?」「自分の大事な一度きりしかない人生のことです。決して一人悩まず,心を許せる友人など『第3者』(親は第3者じゃないです!)に相談するなどして,考えるようにしてくださいね。」などと記載し,ウェブサイトへのリンクをはった本件メールを送信した。同ウェブサイトには,「離婚の危機をもまねく!実家依存症の妻たち」とタイトルで,「最近,自分の実家に入り浸り,自分自身の家庭の家事や夫をおろそかにする妻たちが増えています。」「何かというと,すぐに『実家』に帰るようになります。これが妻の『実家依存症』の始まりです。」「何かちょっとした事がある度に,乗り越えるのではなくそこから逃げ出して,実家を逃避場所にしてしまうのです。」「帰れる実家があるということが離婚の誘因になってしまうことがあるのです。」「精神的に自立したオトナの女性を妻にするということですね。これから結婚する男性は,母親に恋愛相談までしてしまう友達のような母娘関係の彼女は要注意ですよ!」などの離婚カウンセラーの見解が記載されていた。
 
女性は,同月26日,本件結婚式を行った式場に本件結婚式の写真を受け取りに行き,男性に対し,同月27ないし30日ころ,引き取った写真から女性が費用を負担した写真を除き,男性が費用を負担した写真のみを新居に送付した。その際,何らメッセージは添付しなかった。
 
男性は女性に対し,同年12月3日,「突然の『別居』,…10日間が過ぎました。元気にしていますか?そんなわけないよね…僕もつらく,悲しく,寂しい毎日です。今はまだYは何も言えない状況だろうし,僕が何を言っても聞ける状態ではないのだと思います。この10日間,Yが僕に対して振り上げた拳を,降ろせなくなっている拳を,どうしたら降ろしてあげることができるだろうか,そして,2人で落ち着いて話をするテーブルにつくことができるだろうか…いろいろ考えてきましたが,今の僕にはどうすることもできません。Yを待つしかありません。今も変わらず,僕の中にも,新居にも,Yの『居場所』はちゃんとあります。いつ戻ってきても,温かく心地よく,迎えることができるように,きれいに整えて,待っています。」などの内容のメールを送信した。
 
男性は女性に対し,同月12日,「この前12月初めにメールしたのと変わらず同じ気持ちで,ひたすらYを待ち続けています。この間にYからの音信は結局ゼロでした…Yもよほど苦しかったことでしょう。そろそろ口を聞いてもらえないかな?きちんとYの口から,Yの気持ちを聞きたい。黙っていても,僕にはYの気持ちが分からないだけ…少なくとも『憶測』でいろいろなことを考えたくはありません。待ってます。」などの内容のメールを送信した。
 
女性は,同月15日,新居に置き手紙をし,女性が専用で使用する衣類,靴,タオル,まくら,書籍,CDと,二人の共同生活で使用する物干しざお,工具,果物ナイフ,ドライヤー,食器・調理器具の一部,時計,インテリア装飾品,その他冷蔵庫の中の食材,缶詰,酒を持ち去った。
 
また,本件手紙とともに,テーブル上に,男性が女性に預けた生活費の残金,スーパーの会員カード,女性の実家用に作った新居の合いかぎ,男性のパスポートを置いていった。
 
本件手紙には,「11月22日…以降,あなたとのこれからの生活について,十分に時間をかけて考えました。しかし,どれだけ考えても,あなたと一緒に幸せな生活を送ることが,今の私にはできるとは思えないのです。結婚式の夜,あなたに抱いてもらうことができなくても,…気丈にふるまって,あなたを慰めました。…でも,その日から毎晩のようにわたしを抱こうとしても抱けなかったあなたに,わたし自身のあなたへの愛情が次第に冷めていくのを感じていました。…あなたがわたしをようやく抱くことができたあの夜,わたしはあなたとのセックスに満足できなかった自分に気付いてしまったのです。…セックスが夫婦生活のすべてではありませんが,夫婦生活を送る上では欠かせないものです。少なくとも,わたしは,セックスによって身も心も満足したいと思っていました。でも,あなたとのセックスに満足できないわたしにとって,あなたとの日々は生き地獄でしかないのです。そしてわたしは,あなたとお別れする決心をしました。これは,わたしが時間をかけて考え抜いた結果です。…あなたが,また新たな幸せに出会うことができますよう,心からお祈り申し上げます。これまで,本当にありがとうございました。」などと記載されていた。
 
男性は女性に対し,同月19日,「?」とだけ記載したメールを送信した。
 
男性は女性に対し,平成21年1月1日,メールを送信した。同メールには,「別居からずっと,どうしたらあなたとの関係を修復できるのかを考えてきました。が,そもそも原因がよくわからないだけにどうしようもなく,一方で,あなたからの写真の転送のされ方やあの手紙の文面,荷物の持ち去り方から,私との関係を拒絶する(あなたの)意志が相当強いことを感じています。あなたの手紙には到底同意できるものではありませんが,ここまで壊されてしまい,こういう状況になってしまった以上,あなたとの関係をもとに戻すことは,もはや無理でしょう。…今月いっぱいで,あの部屋を引き払うことにしました。ですので,1月25日,結婚式から3ヶ月の日を目処に,あなたがあの部屋に用意した家電・家具等の荷物はすべて持ち帰るようにして下さい。」等記載されていた。
 
女性は,同月15日,新居にある家具,家電等の内,女性が用意した一切の荷物を持ち去った。
 
そして,男性に対し,同月16日付配達記録郵便により,女性が保管していた新居のカギを送付した。
 
 
 
原告の性交能力について
 
上記認定事実によれば,男性の性器は,朝方に自然にぼっ起していたことがあり,女性との性交に問題が生じた原因が,器質的な問題にあったとは直ちにいえず,性交経験を有さない男性の精神的な問題にあったと考える余地がある。
 
そして,二人の性交の状況が,男性が射精に至った平成20年11月7日のものも含め,女性として,性交の実感に乏しいものであったとしても,同日は一応性交が成立したと評価でき,男性に性交能力が欠けていたとは認められない。
 
また,同日後,男性との性交が試みられていないこと,男性にとって女性との性交が初の性交であったこと,本件結婚式の日である平成20年10月から同年11月までは2週間と比較的短期間である上,その間,二人の性交の状況は,やや改善しているとはいえることを考慮すると,二人の性交が,今後二人にとってより望ましいものになり得た可能性も直ちに否定できない。
 
これらからすれば,男性の性交能力が,本件婚約による婚姻予約を伴い,本件結婚式,新婚旅行を経て形成された二人の内縁関係を破棄することが正当化するに足りるほどに特異なものであったと即断することもできない。
 
男性の夫婦の家計計画に対する態度について
 
上記認定事実によれば,夫婦の家計に係る,男性と女性及び女性の両親の対立は,内容的には,家計の計画立案の際,年収ベースで行うか,月収ベースで行うかという点,月収ベースで行う場合に残業手当を考慮して行うかという点にある。
 
そして,月収ベース,ことに残業手当を控除した金額のベースで立案する方が,年収ベースで立案するよりも堅実性が高いのは事実であるが,公務員であり,比較的収入の安定している男性において,見込みの年収ベースで計画を立案することが不合理ということもできないから,男性が女性や女性の両親に対して,年収ベースでの立案の正当性を主張したとしても,それ自体が不当とはいえない。
 
また,年収ベースであれば,女性の収入に頼らなくても,男性の収入のみで家計が維持できる見込みがあり,また,高額にすぎると指摘されていた男性の保険料についても見直しが図られることになっていたこと,男性の月額給与から法定控除等の男性が左右できない支出を除いた金額が31ないし33万円程度であることからすると,男性が女性や女性の両親に対して,男性の経済力を不当に偽ったともいえない。
 
更に,男性は女性の父に対し,平成20年11月7日に,根拠資料が必要であれば改めて持参して説明できる旨伝えたのに対して,女性の父からは「チャンスはもうない。」旨伝えられているもので,男性に,根拠資料を示そうとしない不誠実な態度があったともいえない。
 
なお,女性は,同日以前に,女性の父から男性に対して,根拠資料を資料の開示や男性の父の示した紙にのっとって説明をするように求めていたと主張するところ,女性の父にそのような意向があったことがうかがわれるものの,男性は,男性なりに合理性のある説明を試み,根拠資料が必要であれば改めて持参するとしていたものであり,女性の父の考えからして不十分ないし意向に沿わない説明方法であっても,これをもっ
て,男性を不誠実,頑迷とするのは当たらないというべきである。
 
上記の認定事実からして,男性の,家計計画に対する態度が,二人の内縁関係を破棄することを正当化するに足りるものとはいえない。
 
 
 
本件メールについて
 
女性は,本件結婚式の夜の性交の試みから平成20年11月7日の性交までの間の男性との性交渉において,期待していた充足感が得られず,また,それと並行して男性との家計計画上の意見の相違が顕在化するなどし,男性にその責任があると感じていたところ,男性から,女性が実家依存症であり,そのために問題が生じているかに理解される本件メールを受信し,その感情を害したことは容易に推認される。
 
しかし,性関係上の問題については,従前,女性が男性にこの問題を指摘しておらず,また,射精が果たされるなどして一応は改善傾向にあると評価できる状況にあったこと,家計計画上の意見の相違は男性の見解が一方的に不合理といえるものでもなかったことを前提にすると,男性が,問題の原因が女性の実家依存症にあるかの意見を表明し,それが反って二人の関係を困難にしたとしても,それが不法行為を構成するとはいえない。
 
 
 
被告の不法行為
 
上記認定事実によれば,二人の内縁関係は,女性の本件手紙によって破たんしたといえるところ,男性の性交能力,夫婦の家計計画に対する態度及び本件メールが,二人の内縁関係を破棄することを正当化し得る事情とはいえないから,女性には,本件婚約及び内縁関係を破棄した,不法行為責任が発生する。
 
一方,男性について,不法行為を構成する特段の行為は認められない。
 
なお,女性は,本件別居後,本件手紙の前後において,男性から女性に対するより積極的な働きかけがあってしかるべきであると考えていた様子であるが,平成20年11月22日の女性の父の拒否的な言動やメッセージを付すことなく男性が費用を負担した写真のみを送付した女性の態度に比較して,男性はメールの送信を通じて女性との関係の修復をより積極的に図っていたものであるし,本件手紙の内容は,これと同時に女性が物品を持ち去り,また男性のパスポート等を残置した状況と併せ,男性との別離を完全に決断したと判断される内容であり,その後に男性が「?」と記載したメールを1通送信した後,平成21年1月1日に女性に対して新居から荷物を持ち出すことを要請したメールを送るにとどまったことを法的に非難することはできない。
 
 
 
男性の損害
 
男性が,女性との婚姻及び婚姻生活のために,別紙婚姻関係費用一覧表記載の「男性負担額」(ただし,「結婚報告費用」の内,「結婚挨拶状&写真送付郵送費用」3830円を除く。)合計594万8322円を支出したことが認められる。
 
なお,男性は,婚姻費用の祝儀として49名分の祝儀を受領したとしており,その祝儀の総額は不明であるが,男性が,本件結婚式当時,34ないし35歳で公務員であったことからすれば,男性への祝儀額は通常一人当たり3万円を超えると考えられるから,控えめに見て,120万円を損益相殺するのが相当である。
 
また,男性は,引き出物に,男性や親族のために購入したものがあることを認めているが,その出費は相当因果関係の範囲内の損害というべきであるから,損害を減じる理由にはならない。
 
更に,新居家具家電費用原告負担分はこれらの家具家電品一式を男性が持ち帰っており,これらについては,本件手紙が女性から男性にわたったころの時価と購入価額との差が損害に当たるというべきである。
 
そして,この金額を確定するに足りる証拠はないが,少なくとも3割は減価したものと考え,18万4437円を新居家具家電費用に係る損害として認める。
 
また,結婚報告費用については,結婚式の挨拶状は,二人で準備していたものであり,年賀状についても,二人で相談の上で発送手続が進められたものであり,少なくとも,平成20年12月15日に本件手紙が男性にわたるまでの支出は,男性が独断で行ったとはいえないから,これらは女性の不法行為による損害といえる。
 
すると,別紙婚姻関係費用一覧表記載の「原告負担額」のうち,431万7967円が男性の損害となる。
 
 
 
慰謝料額
 
本件婚約,本件結婚式及び女性が新居のカギを郵送した平成21年1月16日の各期間,並びに二人の同居期間の短さや,女性が男性との本件婚姻や内縁関係を破棄するに至った原因として,事前に認識し得なかった性関係の不一致(将来的にどの程度改善するかは証拠上不明。)が少なからぬ原因となっていること等,本件に現れた諸事情を考慮すると,本件での男性の慰謝料額としては70万円が相当である。
 
 
 
弁護士費用
 
上記金額及び本件訴訟の内容に照らし,50万円を相当とする。
 
以上によれば,被告の不法行為による原告の損害は551万7967円となる。
 
 
 
結論
 
以上によれば,男性の請求は,551万7967円及びこれに対する女性が新居のカギを男性に郵送して内縁関係の破たんが確定した平成21年1月16日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,女性の請求には理由がないから,主文のとおり判決する。