9月10日の判決 司法書士による弁護士法違反

考察

140万円を超える過払裁判は司法書士に依頼することができません。
依頼者から印鑑を預かって作成した書類は依頼者の代理人として司法書士が作成したものであり、依頼者本人が作成したものではありません。

前提事実

乙山司法書士は、多数の依頼者の依頼を受けて過払金返還請求事件を取り扱ってきたものであるが、原告から依頼を受ける以前、貸金業者から過払金の返還を受けるため、地方裁判所に対して過払金返還請求事件に係る訴えを提起する必要がある場合には、おおむね次のとおりの処理方針(以下「本件処理方針」という。)を採っていた。
  
(ア) 依頼者から、訴訟に必要な書面の作成・提出の一切を任せてもらい、依頼者の印鑑を預かり、乙山自身の判断で訴訟に必要な訴状その他の書面を作成して印鑑を押印し、裁判所に書面を提出する。
 
(イ) 訴訟の期日には依頼者を出頭させ、依頼者に、あらかじめ指示したとおり、訴状その他の準備書面を陳述すること、和解の提案があった場合にはこれを拒否することなどごく限られた行為のみを行わせる。
 
原告は、法律の専門的知識を有しないものであり、本件訴えの提起に先立ち、乙山に対し、本件のものを含む過払金返還請求事件の処理を依頼し、その報酬の支払を約束し、原告の姓である「甲野」の文字が刻印された印鑑を預けた。
 
乙山は、自らが作成した本件訴状に、原告の氏名を記名してその印鑑を押印し、平成二四年三月一六日、富山地方裁判所に対し、これを提出した。本件訴状記載の請求は、原告が、被告に対し、本件取引に係る不当利得に基づく過払金三四四万九四七四円並びに平成二四年三月一六日までの法定利息二九万七八五三円及び上記過払金に対する同月一七日から支払済みまで年五分の割合による法定利息の支払を求めるというものである。
 
ウ 平成二四年三月二二日、富山地方裁判所裁判官は、本件の第一回口頭弁論期日を同年四月二二日午後一時二〇分と指定したところ、乙山は、同日時の期日に出頭する旨記載した期日請書を作成し、原告の氏名を記名してその印鑑を押印した上、丙川事務所のファクシミリ送受信機から、同裁判所に対し、その期日請書を送信した。
 
エ 平成二四年四月二四日午後一時二〇分に実施された本件の第一回口頭弁論期日には原告が出頭し、同期日において、原告は本件訴状を陳述し、被告があらかじめ提出した答弁書は陳述擬制とされ、富山地方裁判所裁判官は次回の口頭弁論期日を追って指定とした。そして、同日、同裁判所は、本件を弁論準備手続に付するとともに期日を同年五月二五日午後三時〇〇分と指定したところ、乙山は、電話会議の方法により実施される同日時の期日に出頭する旨記載した期日請書を作成し、原告の氏名を記名してその印鑑を押印した上、丙川事務所のファクシミリ送受信機から、同裁判所に対し、その期日請書を送信した。また、同裁判所裁判所書記官は、被告代理人に対し、次回期日等を告知した際、被告代理人に対し、次回期日の一週間前までに主張書面を提出するよう求めた。
 
オ 乙山は、平成二四年五月一七日、自らが作成した同日付け原告第一準備書面に原告の氏名を記名してその印鑑を押印した上、丙川事務所のファクシミリ送受信機から、富山地方裁判所及び被告代理人に対し、同準備書面を送信した。同準備書面は、制限超過部分を元本に充当した結果、過払金及び法定利息が発生した場合に、これらをその後に発生する新たな借入金債務に充当することの可否、民法七〇四条前段の悪意の受益者に該当するか否かの判断基準、過払金返還請求権の時効の起算日等の解釈上の論点について見解を主張した上で、それらの見解を本件取引に適用した場合に導かれる結論を主張することを主たる内容とするものであるが、末尾には、「原告は、和解に応じないこととしましたので、裁判所からの和解勧試もなさらないようにお願いいたします。速やかに判決がなされることを要望します。」との記載がある。
 
カ 被告代理人は、平成二四年五月二二日、富山地方裁判所及び原告の送達受取人として届出がなされていた乙山に対し、訴状記載の請求原因に対して認否・反論する内容の同日付けの第一準備書面をファクシミリで送信したところ、乙山は、同月二四日、自らが作成した同日付け原告第二準備書面に原告の氏名を記名してその印鑑を押印した上、丙川事務所のファクシミリ送受信機から、同裁判所及び被告代理人に対し、同準備書面を送信した。同準備書面は、被告の上記第一準備書面に対する反論が主たる内容であるが、末尾には、「原告は、和解に応じないこととしましたので、速やかに審理がなされることを要望します。裁判所からの和解勧試もなさらないようにお願いいたします。」との記載がある。
 
キ 乙山は、平成二四年五月二五日午前一〇時三八分ころ、自らが作成した同日付け上申書に原告の氏名を記名してその印鑑を押印した上、丙川事務所のファクシミリ送受信機から、富山地方裁判所に対し、上記上申書を送信した。同上申書には、「被告からの和解の提案については、原告は、第一準備書面、第二準備書面においても明示しているように、和解に応じる意思はありません。また、別紙意見書・陳述書のようなことが行われないように、本件審理をすみやかに進めていただけることを要望します。」との記載があり、別紙として、当庁平成二三年(ワ)第四五七号不当利得返還請求事件の原告である丁原松夫の平成二四年四月四日付け陳述書及び当庁平成二三年(ワ)第五二九号不当利得返還請求事件の原告である戊田竹子の平成二四年二月一日付け意見書がある。これらの陳述書及び意見書の作成名義人はいずれも過去に過払金返還請求事件の処理を乙山に依頼した者らであるが、いずれも原告とは面識がなく、上記各書面の内容は、いずれも、要旨、訴訟において和解に応じるべきか否かを決定する際に担当裁判官に対して乙山と相談したいと求めたのに、これが認められなかったために、不本意な和解を成立させられたというものである。
 
乙山は、平成二四年五月二五日、自らが作成した同日付け訴え変更申立書(以下「本件変更申立書」という。)に原告の氏名を記名してその印鑑を押印した上、原告と共に、富山地方裁判所にこれを持参し、同日午後三時〇〇分に実施された本件の第一回弁論準備手続期日の前に、同裁判所裁判所書記官に対し、本件変更申立書を提出した。本件変更申立書は、原告の請求を、本件訴状の請求から本件不当利得請求及び本件不法行為請求に拡張することなどを内容とするものである。
 
上記期日には原告が出頭し、被告代理人については電話会議の方法が執られた。同期日において、原告は、平成二五年五月一七日付け原告第一準備書面及び同月二四日付け原告第二準備書面を各陳述し、被告代理人は、同月二二日付け第一準備書面を陳述し、富山地方裁判所裁判官は、被告代理人に対し、送達予定の本件変更申立書に対して答弁及び反論をするよう指示し、次回の弁論準備手続期日を同年七月四日午後四時三〇分と指定した。
 
なお、本件変更申立書は、同年五月二九日、被告代理人に送達された。
 
ク 被告代理人は、平成二四年七月三日、富山地方裁判所及び乙山に対し、同日付け答弁書(訴え変更)をファクシミリで送信した。同答弁書の内容は、本件で原告の名において行われている本件訴えの提起を含む訴訟行為は、乙山が原告を代理して行っているのと実質的に同じであり、いずれも民事訴訟法五四条一項本文に違反するから、無効であるとして、本案前の申立てとして本件訴えを却下するとの判決を求めるとともに、本案の答弁として原告の請求を棄却するとの判決を求め、本件変更申立書記載の請求原因事実に対して認否・反論するものである。
 
更に、被告代理人は、平成二四年七月四日、富山地方裁判所及び乙山に対し、同日付け第二準備書面をファクシミリで送信した。同準備書面の内容は、本件取引の貸付けのうち履歴の存在しないものにつき貸付額の推定計算を行う方法の説明をするものである。
 
ケ 平成二四年七月四日午後四時三〇分に実施された本件の第二回弁論準備手続期日には原告が出頭し、被告代理人については電話会議の方法が執られた。同期日において、原告は、本件変更申立書を陳述し、被告は、同月三日付け答弁書(訴え変更)を陳述し、富山地方裁判所裁判官は、原告に対し、同答弁書(訴え変更)に対して反論をするよう指示し、次回の弁論準備手続期日を同年七月三一日午後四時三〇分と指定した。
 
コ 乙山は、平成二四年七月二六日、自らが作成した同月二五日付け原告第三準備書面に原告の氏名を記名してその印鑑を押印した上、丙川事務所のファクシミリ送受信機から、富山地方裁判所及び被告代理人に対し、同準備書面を送信した。同準備書面は、被告の同月三日付け答弁書(訴え変更)及び同月四日付け第二準備書面に対する反論を内容とするものである。
 
サ 平成二四年七月三一日午後四時三〇分に実施された本件の第三回弁論準備手続期日には原告及び被告代理人が出頭した。同期日において、原告は、同月二五日付け原告第三準備書面を陳述し、被告代理人は、同月四日付け第二準備書面を陳述した。また、被告代理人は、原告に対し、本件を和解で解決することの可否、これができないとすればその理由を質問したところ、原告は、和解で解決することはできず、その理由は自身に和解をするつもりがないからである旨回答した。さらに、被告代理人は、原告に対し、上記原告第三準備書面にある二か所の記載内容の趣旨を確認するための釈明を求めたが、原告は、いずれについても書面で回答する旨応答した。富山地方裁判所裁判官は、原告に対し、被告の求釈明に対する書面での回答を、被告代理人に対し、上記原告第三準備書面に対する反論をそれぞれ準備するよう指示し、次回の弁論準備手続期日を同年九月二一日午後四時三〇分と指定した。
 
なお、乙山は、上記期日後、原告から、上記期日において被告代理人から求められた釈明の内容を聴取した。
 
シ 乙山は、平成二四年九月一三日、自らが作成した同日付け原告第四準備書面に原告の氏名を記名してその印鑑を押印した上、丙川事務所のファクシミリ送受信機から、富山地方裁判所及び被告代理人に対し、同準備書面を送信した。同準備書面は、上記サのとおり被告代理人が原告に対してした求釈明に対する回答を内容とするものである。
 
被告代理人も、平成二四年九月一三日、富山地方裁判所及び乙山に対し、同日付け第三準備書面及び通話結果報告書をファクシミリで送信した。同準備書面の内容は、被告代理人が戊田竹子と接触し、戊田竹子が乙山に過払金返還請求事件の処理を依頼した際、乙山は、戊田竹子から印鑑を預かり、自らの判断で訴状を作成し、地方裁判所に対し、戊田竹子を原告、貸金業者を被告として過払金の支払を求める訴えを提起し、その後に実施された期日における対応方針につき指導を行っていたことなどの供述を得たことなどを踏まえ、改めて、本件につき原告の名において行われた訴えの提起を含む一切の訴訟行為が民事訴訟法五四条一項本文に違反し、無効である旨主張するものである。また、通話結果報告書は、戊田竹子の上記供述を内容とする被告代理人作成に係る聴取書である。
 
ス 乙山は、平成二四年九月二一日午後二時ころから午後四時ころまでの間、自らが作成した同日付け原告第五準備書面に原告の氏名を記名してその印鑑を押印した上、丙川事務所のファクシミリ送受信機から、富山地方裁判所及び被告代理人に対し、同準備書面及び戊田竹子の陳述書を送信した。同準備書面の内容は、乙山と戊田竹子の関係は、本件とは無関係であるなどとして被告の同月一三日付け第三準備書面に対して反論するものであり、戊田竹子の陳述書は、通話結果報告書には、戊田竹子と被告代理人との間の会話内容が正しく反映されていないなどという戊田竹子の供述を内容とするものである。
 
平成二四年九月二一日午後四時三〇分に実施された本件の第四回弁論準備手続期日には原告及び被告代理人が出頭した。同期日において、原告は、同月一三日付け原告第四準備書面及び同月二一日付け原告第五準備書面を各陳述し、被告代理人は、同月一三日付け第三準備書面を陳述した。また、被告代理人は、原告に対し、上記原告第四準備書面の中にかぎ括弧の付された引用部分があるが、被告の主張書面を引用したものであるのかと釈明を求めたところ、原告は、書面で回答すると応答した。さらに、被告代理人は、原告に対し、上記原告第五準備書面を受け取ったばかりで十分に検討できていないとして、その内容の説明を求めたところ、原告は、書面に書いてあるとおりであるが、全部は分からない旨応答した。富山地方裁判所裁判官は、被告代理人に対し、原告の主張に対して反論するよう指示し、次回の弁論準備手続期日を同年一〇月三〇日午後四時三〇分と指定した。
 
セ 被告代理人は、平成二四年九月二八日、富山地方裁判所及び乙山に対し、録音反訳書をファクシミリで送信した。録音反訳書は、被告代理人と戊田竹子の会話内容を録音した記録媒体の音声を反訳したものであり、通話結果報告書を作成する基となったものである。
 
ソ 乙山は、平成二四年一〇月二二日、本件の第四回弁論準備手続調書の謄本の交付を請求する旨記載のある、同日付け訴訟記録の謄本交付申請書及び上記調書の謄本を受領した旨記載のある同日付けの請書を作成し、これらの書面に原告の氏名を記名してその印鑑を押印した上、これらを富山地方裁判所に持参して同裁判所裁判所書記官に対して交付し、同裁判所書記官から、本件の第四回弁論準備手続調書の謄本を受け取った。
 
タ 被告代理人は、平成二四年一〇月二三日、富山地方裁判所及び乙山に対し、同日付け第四準備書面をファクシミリで送信した。同準備書面は、本件第四回弁論準備手続における原告の言動について説明し、原告が被告代理人からの本件の事案の内容に係る質問等に対しては書面で回答するとの形式的対応に終始していたことなどを主張するものである。
 
乙山も、平成二四年一〇月二三日、自らが作成した同日付け原告第六準備書面に原告の氏名を記名してその印鑑を押印した上、丙川事務所のファクシミリ送受信機から、富山地方裁判所及び被告代理人に対し、同準備書面を送信した。同準備書面の内容は、被告代理人が本件の第四回弁論準備手続期日において原告に対して求めた同年九月一三日付け原告第四準備書面に係る釈明に対して回答するものである。
 
チ 乙山は、平成二四年一〇月二九日、自らが作成した同日付け原告第七準備書面に原告の氏名を記名してその印鑑を押印した上、丙川事務所のファクシミリ送受信機から、富山地方裁判所及び被告代理人に対し、同準備書面及び戊田竹子の陳述書(2)を送信した。同準備書面は、原告が被告代理人の求める釈明に対して書面で回答する旨応答しているのは、原告が法律の専門家でないために聞き間違い、言い間違いが起きる可能性が大きいからであるなどとして被告の主張に対して反論するものであり、戊田竹子の陳述書(2)は、戊田竹子と被告代理人との間で録音反訳書のとおりの会話があったことは事実であるが、戊田竹子の発言は被告代理人の誘導により自らの意図と異なるものとなっているとの戊田竹子の供述を内容とするものである。
 
また、乙山は、平成二四年一〇月二九日、自らが作成した同日付け調書の記載に対する異議申立書に原告の氏名を記名してその印鑑を押印した上、これを富山地方裁判所に持参し、同裁判所裁判所書記官に対し、これを交付した。同異議申立書は、本件の第四回弁論準備手続調書には、原告が、被告代理人から、同年九月二一日付け原告第五準備書面の内容の説明を求められたのに対し、「書面に書いてあるとおりですが、全部はわかりません。」と回答したとの記載があるが、原告は、「書面に書いてあるとおりです。」と回答したものの、「全部はわかりません。」とは回答していないので、同記載の削除を求めるというものであるが、同裁判所は、上記調書の記載の変更等の措置を執らなかった。
 
ツ 平成二四年一〇月三〇日午後四時三〇分に実施された本件の第五回弁論準備手続期日には原告及び被告代理人が出頭した。同期日において、原告は、同月二三日付け原告第六準備書面及び同月二九日付け原告第七準備書面を各陳述し、被告代理人は、同月二三日付け第四準備書面を陳述し、富山地方裁判所は、被告代理人による原告本人尋問の申出を採用し、弁論準備手続を終結した。そして、同裁判所裁判官は、本件の口頭弁論期日を平成二四年一二月一八日午後三時〇〇分と指定した。
 
なお、原告は、上記期日において、指定された期日以外を筆記している様子がなかった。
 
テ 乙山は、平成二四年一一月一日、本件の第五回弁論準備手続調書の謄本の交付を請求する旨記載のある、同日付け訴訟記録の謄本交付申請書及び上記調書の謄本を受領した旨記載のある同日付けの請書を作成し、これらの書面に原告の氏名を記名してその印鑑を押印した上、これらを富山地方裁判所に持参して同裁判所裁判所書記官に対して交付し、同裁判所書記官から、本件の第五回弁論準備手続調書の謄本を受け取った。
 
ト 乙山は、平成二四年一二月一七日、原告の署名及び押印のある同日付け調書の記載に対する異議申立書を富山地方裁判所に持参し、同裁判所裁判所書記官に対し、これを交付した。同異議申立書は、本件の第五回弁論準備手続期日では、裁判官が、原告に対し、「甲野さんは一貫して和解をしないと言ってきましたが、今も変わりはないですか。」などと発問し、これに対し、原告が、「和解するつもりは今もありません。」などと応答したやりとりがあるのに、同期日の調書には、その記載がないので、裁判官、原告及び被告代理人との間のやりとりの記載を求めるというものであるが、同裁判所は、上記調書の記載の変更等の措置を執らなかった。
 
また、乙山は、上記異議申立書を交付した際、富山地方裁判所裁判所書記官に対し、併せて、原告の署名及び押印のある平成二四年一二月一七日付け原告第八準備書面も提出した。同準備書面は、原告は、本件の全ての訴訟行為を追認する旨主張するものである。
 
ナ 平成二四年一二月一八日午後三時〇〇分に実施された本件の第二回口頭弁論期日には原告及び被告代理人が出頭した。同期日において、原告及び被告代理人は弁論準備手続の結果を陳述し、原告は、同月一七日付け原告第八準備書面を陳述し、富山地方裁判所は、原告及び被告代理人から書証の提出を受けた上、原告本人尋問を実施した。そして、同裁判所裁判官は、次回の口頭弁論期日を平成二五年二月二六日午後四時と指定した。
 
ニ 乙山は、平成二五年一月一一日、本件の第二回口頭弁論調書及び原告本人尋問調書の謄本の交付を請求する旨記載のある、同日付け訴訟記録の謄本交付申請書及び上記調書の謄本を受領した旨記載のある同日付けの請書を作成し、これらの書面に原告の氏名を記名してその印鑑を押印した上、これらを富山地方裁判所に持参して同裁判所裁判所書記官に対して交付し、同裁判所書記官から、本件の第二回口頭弁論調書及び原告本人尋問調書の謄本を受け取った。
 
ヌ 被告代理人は、平成二五年二月二一日、富山地方裁判所及び乙山に対し、同日付け第五準備書面をファクシミリで送信した。同準備書面は、本件の第二回口頭弁論期日において実施された原告本人尋問の結果等を踏まえ、原告の訴訟行為が民事訴訟法五四条一項本文に違反することに関する主張を総括するものである。
 
ネ 乙山は、平成二五年二月二五日、原告の署名及び押印のある同日付け原告第九準備書面を富山地方裁判所に持参し、同裁判所裁判所書記官に対してこれを交付して提出した。同準備書面は、被告の同月二一日付け第五準備書面に対する反論を内容とするものである。
 
また、乙山は、平成二五年二月二五日、富山地方裁判所に対し、原告の署名及び押印のある同月二五日付け裁判官忌避の申立書を提出した。同申立書記載の申立て(当庁平成二五年(モ)第三三号裁判官に対する忌避の申立事件。以下「本件忌避申立て」という。)の趣旨は、本件を担当する同裁判所裁判官を忌避するとの裁判を求めるというものである。
 
これを受け、富山地方裁判所裁判官は、平成二五年二月二五日、同月二六日午後四時の口頭弁論期日を取り消し、次回の口頭弁論期日を追って指定とした。
 
ノ 富山地方裁判所は、平成二五年二月二七日、本件忌避申立てを却下するとの決定をした。これに対し、乙山は、同年三月五日、原告の署名及び押印のある同日付けの即時抗告状を同裁判所に持参してこれを提出したが(名古屋高等裁判所金沢支部平成二五年(ラ)第二四号裁判官に対する忌避の申立却下決定に対する即時抗告事件。以下「本件抗告」という。)、名古屋高等裁判所金沢支部は、同年五月八日、本件抗告を棄却するとの決定をし、同決定は確定した。
 
これを受け、富山地方裁判所裁判官は、平成二五年五月二八日、本件の口頭弁論期日を同年七月二日午後二時三〇分と指定した。
 
ハ 平成二五年七月二日午後二時三〇分に実施された本件の第三回口頭弁論期日には原告及び被告代理人が出頭した。同期日において、原告は、同年二月二五日付け原告第九準備書面を陳述し、被告代理人は、同月二一日付け第五準備書面を陳述し、富山地方裁判所は、原告から書証の提出を受け、弁論を終結した。そして、同裁判所裁判官は、判決言渡期日を同年九月一〇日午後一時一〇分と指定した。
 
ヒ 乙山は、本件の上記各期日に原告が出頭した際、その都度同行しており、本件の口頭弁論期日をいずれも傍聴したが、本件の弁論準備手続期日の傍聴を許されなかった。
 
フ 民事訴訟法五四条一項本文は、いわゆる弁護士代理の原則を規定し、地方裁判所以上の裁判所の訴訟事件について訴訟代理人が弁護士であることを訴訟代理権の発生・存続の要件とし、この要件を欠いた訴訟行為の効力を否定するものであるが、その趣旨は、訴訟の技術性・専門性を重視し、訴訟の効率的運営のために訴訟代理人を弁護士の有資格者に限定するとともに、いわゆる事件屋などの介入を排除するという公益的目的を図ることにある。
 
もっとも、紛争の当事者以外の第三者の訴訟関与の形態は訴訟代理に限られないところ、法律上の定めなく、実質的当事者である被担当者が訴訟担当者に訴訟追行権を授与し、訴訟担当者の名において訴訟追行をさせる、いわゆる任意的訴訟担当は、弁護士代理の原則を回避、潜脱するおそれがなく、合理的な必要がある場合に限り認められるものと解されているほか、非弁護士で法律事務の取扱いを業とする者を補佐人とすることも、弁護士代理の原則の趣旨に反して許されないものと解されており、民事訴訟法五四条一項本文により効力が否定されるべき訴訟行為は、非弁護士が当事者本人を代理して行ったものに限られず、実質的にこれと同視できるもの、すなわち、当事者が非弁護士に対して訴訟行為を策定する事務を包括的に委任し、その委任に基づき非弁護士が策定したものと認められる訴訟行為を含むものと解すべきである。
 
司法書士法三条一項四号は、裁判所に提出する書類を作成する事務を司法書士の行う事務と定める一方、弁護士法七二条は、弁護士または弁護士法人でないものによる報酬を得る目的での訴訟事件に係る法律事務の取扱いを禁止する旨定めているところ、司法書士法三条一項四号所定の書類作成事務の限界と弁護士法七二条により禁止される法律事務の範囲については、訴状、答弁書または準備書面等の作成は、他人から嘱託された趣旨内容の書類を作成する場合であれば、司法書士の業務範囲に含まれ、弁護士法七二条違反の問題を生ずることはないが、いかなる趣旨内容の書類を作成すべきかを判断することは、司法書士の固有の業務範囲には含まれないと解すべきであるから、これを専門的法律知識に基づいて判断し、その判断に基づいて書類を作成する場合には同条違反となるものと解されており、民事訴訟法五四条一項本文の適用範囲につき上記のとおり解釈することは、紛争の当事者からの委任を受けていかなる趣旨内容の訴訟行為を行うべきかを判断し、訴訟行為を策定する事務は弁護士の固有の業務範囲とされ、非弁護士がそのような事務を業として行うことが弁護士法七二条により禁止されていることと整合的である。
 

 
裁判所の判断
 
ア 以上を前提に検討すると、上記(1)認定のとおり、乙山は、富山地方裁判所裁判官が、本件訴えの提起後ほどなくして行った本件の第一回口頭弁論期日の指定及び本件の第一回口頭弁論期日が実施されたのと同日に行った本件の第一回弁論準備手続期日の指定に対応して、両期日指定の命令があったのと同日中に、丙川事務所のファクシミリ送受信機から、同裁判所に対し、原告の印鑑の押印のある期日請書を送信したり(上記(1)ウ、エ)、被告代理人から反論の準備書面を受け取ると、三日足らずのうちに被告の準備書面に反論する内容の準備書面を作成して原告の印鑑を押印し、丙川事務所のファクシミリ送受信機から、同裁判所及び被告代理人に対し、これを送信したりしたこと(上記(1)カ)、乙山が同裁判所に対して提出した書面のうち、平成二四年一二月一七日よりも前に同裁判所に提出された書面は、いずれも作成名義につき原告の記名及び押印があるのみであり、丙川事務所のファクシミリ送受信機から送信され、または乙山が持参したものであることなどによれば、

原告は、本件訴えの提起に先立ち、乙山に原告の印鑑を預け、乙山は、これを、少なくとも平成二四年一一月一日付け訴訟記録の謄本交付申請書等を作成するまでの間、管理し続けていたものと認めるのが合理的である。
 
また、乙山が原告から預かり保管中の印鑑を押印して作成した各書面をみると、その内容からして法律の専門的知識を有しない原告が自ら作成すべき書面の趣旨内容を決定し、それに即した書面を乙山に作成してもらったとは考え難いものが少なからずみられるところではあるが、その中でも、裁判所からの指示もない段階で、法的見解にわたる主張を追加したり、裁判所からも被告からも和解の提案がないのに、和解を拒否する意向を示したりするという内容が記載された準備書面や、原告が和解に応じない意向であることなどを記載した上申書に、原告と全く面識のない、乙山の依頼者であった丁原松夫及び戊田竹子なる人物が、自身の過払金返還請求訴訟において、和解の諾否を決定する前に担当裁判官に対して乙山と相談したいと求めたのに、それが認められなかったために、不本意な和解を成立させられたことがあるなどといった供述を記載した書面が添付されているもの、あるいは、戊田竹子の供述が記載された陳述書は、いずれも乙山が自らの判断で作成ないし提出したものというほかない。
 
さらに、乙山は、司法書士として多数の過払金返還請求事件を取り扱ってきたものであるが、原告から依頼を受ける以前、地方裁判所に対して過払金返還請求事件に係る訴えを提起する必要がある場合には、本件処理方針を採っており、原告からの依頼を受けた際に、乙山がこれと異なる方針を採っていたことをうかがわせる事情は見当たらない。
 
イ 以上によれば、乙山は、過払金の返還を受けようとする依頼者は、概して、過払金の返還を受けることに高い関心を有するものの、その返還を受けるプロセスがどのようなものであるかについては関心が低いことなどに着目し、書面の作成に伴う自身及び依頼者の事務負担を軽減することを目的として、貸金業者から過払金の返還を受けるために地方裁判所に訴えを提起する必要がある場合には、弁護士法七二条に違反することを承知しながら、依頼者との間の関係は内部的なものであり、第三者にその実態を知られるおそれはほとんどないものと考え、本件処理方針を採ってきており、これは、乙山が原告から依頼を受けた際も異ならなかったものと認められる。
 
そして、原告の乙山に対する本件処理方針に従った事務の委任は、本件に係る訴訟行為を策定する事務を包括的に委任するものであり、本件訴えの提起は、この委任に基づき乙山が策定した訴訟行為であると認められる。
 
よって、本件訴えの提起は、民事訴訟法五四条一項本文に違反するものであり、無効というべきである。なお、本件訴状の記載によってなされた送達場所及び送達受取人の届出の各訴訟行為も本件訴えの提起と同様に無効である。

民事訴訟法五四条一項本文に違反する訴訟行為が無効であることは前記説示のとおりであり、その無効の性質が訴訟代理権の欠缺の場合と同様であるとすれば、同項本文違反の訴訟行為は当事者の追認があれば有効となる。

そして、受任者が非弁護士であるとは知らずに委任した当事者は、訴えの提起が同項本文に違反するとの理由で訴えが却下されて消滅時効の中断等の付随的効果を失うなどの不利益を負わせるのが相当性を欠く場合もあり、追認による訴訟行為の補正の余地を認めるべきである。しかしながら、他方で、受任者が非弁護士であることを知りながら委任した当事者については、追認が認められないことによる不利益を甘受させるのが相当であるし、同項本文の趣旨が訴訟の技術性・専門性を重視し、訴訟の効率的運営のために訴訟代理人を弁護士の有資格者に限定するとともに、いわゆる事件屋などの介入を排除するという公益的目的を図ることにあることは前記説示のとおりであるところ、そのような当事者にまで同項本文違反の訴訟行為を追認により有効とすることを認めると、上記の公益的目的の実現のために訴訟行為をあえて無効とする不利益を課した実質的意義が失われることになる。

したがって、受任者が非弁護士であることを知りながら委任した当事者において、同項本文違反の訴訟行為を追認しても、その訴訟行為は有効とはならないものと解するのが相当である。