10月2日の判決デート商法とクレジット。払った金は返ってくる!

大津地方裁判所長浜支部平成21年10月2日判決

考察

デート商法で騙されたと諦めてはいけません。逆転ホームランを打てますよ。

事案の概要

デート商法をめぐり,被害者がクレジット契約を結んだ大手信販会社などに既払代金の返還を求めた事案。

1 当事者

原告は、昭和56年生まれの未婚女性。

被告は信販会社。

A社は加盟店。

2 Bらのグループによるデート商法

ア Bは、C社の代表取締役。
   
イ C社は、傘下にA社及びE社を置き,C社は、消費者の恋愛感情や善意につけ込み、いわゆるデート商法を行っていた。その手口は次のようなものである。
    
(ア) 販売目的を秘して不特定多数の若者に電話をし、営業所等に呼び出した上で、長時間にわたり高額の衣類や装飾品等を買うよう勧誘し、恋愛感情等を利用して、その購入のために、信販契約を締結させる。

(イ) デート名目で販売目的を秘して上記契約者を再度呼び出し、上記契約の金額の増額や、セット商品の購入を勧誘し、そのための信販契約を締結させる(「パッケージアップ」)。

(ウ) 上記同様に契約者を再び呼び出し、別の商品を買う必要がある旨勧誘し、その購入のため信販契約を結ばせる(「リピート」)。

(エ) 上記契約者の信販の枠がなくなると、また上記同様に契約者を呼び出し、「前の契約を取り消すために必要だ」等と言って、契約者を消費者金融に行かせ、融資金やローンカードを受け取る(「ロード」)。

エ C社のメンバーは、代表取締役であるBのほか、F、Gらがおり,組織的にデート商法を行い、被害者は100人以上に及んだ。B、F及びGらは、組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律違反の容疑で起訴され、いずれも有罪判決を受けた。
  

3 実際の手口

ア 原告は、平成15年4月上旬ころ、自宅にGからの電話を受けた。

Gは、原告と面識がないのに親しげに話しかけてきたが、話が盛り上がった末、今度会ってみようという話になり、会う約束をした。

イ 原告は、同月20日午後2時ころ、大阪駅でGと会い、ゆっくり話ができるようにという理由で、天神橋にあるビル内の本件事務所に直行した。

本件事務所に到着すると、Gは原告と世間話をする中で「社会人になったのでスーツが必要だよね」「冠婚葬祭にも使えるし1着くらい持ってたほうがいい」等として、50万円のスーツ1着の購入を勧めた。原告は断ったが、Gはその後も執拗に購入を勧め続けた。

午後7時ころになると、Gの上司と称するBが現れ、「本当は50万円するところ、彼女なんだから特別に30万に値引きしてあげる」等と購入を勧めてきた。原告は勧誘を断り続けたが、結局契約書に署名した。原告が本件事務所を退出したのは、翌日午前6時ころであった。

ウ 原告は、同月27日ころ、電話でスーツの採寸のため本件事務所に来るよう求められ、これに応じた。

同年5月25日には、Bからデート名目で誘われ、本件事務所に出向いた際、Bから2時間以上にわたり「高い契約をとって部下に示したい」「代金はすべて自分が払うから、名前だけ貸してほしい」と懇願された。

原告は、Bの熱心さからこの話を信用し、求めに応じて、ゼニアのオーダーコート(75万円)とオーダースーツ(45万円)の購入代金に係るHとの間のクレジット契約書に署名押印した。同契約書の販売店欄にはE社の記名印が押され、取次店欄は空白であった。なお、原告はこれ以前にクレジット契約を締結した経験はなかった。

エ 原告は、同年6月14日、Bから、H契約を解約するために現金が必要であるとして、消費者金融のOから現金を借り入れることを求められた。原告は、Bの説明を信用し、指示どおりにOの会員となり、カードをBに交付した。原告は、同年7月にも、同様の理由でPの会員となり、カードをBに交付した。

オ 原告は、同年8月24日ころ、「前のは駄目になったから、もう一度来てほしい」とBから呼び出され、出向いたところ、H契約を取り消すために必要だと説明され、これを信用し、ゼニアのオーダースーツ(58万5000円)とオリジナルコート(45万円)の購入代金に係るIとの間のクレジット契約書に署名押印した(この契約を以下「I契約」という。)。同契約書の販売店欄にはE社の記名印が押され、取扱店欄は空白であった。

カ 原告は、H契約及びI契約に基づき、各契約書で支払口座として指定した原告名義のQ銀行長浜支店普通預金口座からの自動引落しで、商品代金として毎月10万円前後を分割払いしたが、商品を受け取ることはなかった。上記オの後、原告は電話やメールを通じてBに対しクレジット契約の解約ができたのかを何度か尋ねたが、その度にBは手続中であるから待って欲しい旨答えた。

4 本件クレジット契約(ニセの契約)

ア 平成16年9月20日付けの本件クレジット契約書は、デザインネックレスの購入代金(73万5000円)の分割払いに係る内容で、契約者欄には原告の氏名、生年月日、電話番号、住所、勤務先等が記載され、支払口座として、H契約及びI契約の契約書と同じ原告名義のQ銀行長浜支店普通預金口座が指定されている。

しかし、契約者押印欄の印影は原告の姓である「X1」ではなく「X1’」であり、勤務先の所属部課として記載されている「介護福祉課」は××市役所に存在しない部署であった。

同契約書の販売店欄にはA社の名称が、販売担当者氏名としてGの名がそれぞれ記載されている。

イ 被告は、当時のシステムに従い、本件クレジット契約書をファックスで受信すると、提携する信用情報機関に当該情報を送信し、ほどなく戻ってきた原告の個人信用情報に基づき一次審査を行い、さらに本件クレジット契約書に記載された情報と併せて二次審査を行った。以上の審査の過程で、被告は原告の運転免許証の写しを入手した。

ウ 原告は、同月23日ころ、Bから電話を受け、H契約とI契約を解約するためにクレジットの契約をするから、確認の電話があった際にはよろしく頼む旨の電話を受けた。原告は、Bが上記両契約の解約のために動いていると信じ、その指示に従うこととした。

エ 原告は、同月24日午後0時40分ころ、被告の担当者から契約意思確認の電話を自身の携帯電話で受けた。

原告は、担当者から生年月日を確認された上で、支払明細の送付先を尋ねられると、自宅への送付を希望する旨回答した。

また、契約書の署名押印は自分でしたか、申込書の控えを受け取ったか、このクレジット商品契約について販売店から説明を受け理解したかとの担当者からの質問に対しては、いずれも「はい」と回答した。

さらに、担当者は、原告の支払内容(頭金、金額、回数、ボーナス月の支払金額)、自動振込用の銀行口座を確認したほか、同口座が給与振込用口座であるか否かを質問し、原告が否と回答すると、指定引落日前に残高を準備するよう指示した。原告は、嘘を言っていると感じつつ、これで支払が終わるという思いで答えた。

オ 被告は、上記エの電話により原告本人の契約意思が確認されたとして、本件クレジット契約について審査を通過させ、原告の契約申込を承諾した。
  

5 本件クレジット契約の解除

原告は、平成19年2月ころ、報道により詐欺被害に気づき、被告に対し、本件クレジット契約の解除の意思表示をした。それまでの間に、原告は本件クレジット契約に基づき、被告に対し30万7750円、18万円をそれぞれ支払ったが、商品は一切受け取っていない。
 

裁判所の判断

1 消費者契約法に基づく本件クレジット契約取消の可否

(1) 被告らは、クレジット契約において、販売店が信販会社と顧客との間の契約を媒介するという構造にはなっていないので、消費者契約法5条の適用がない旨主張する。

しかし、媒介とは、他人間との間に法律行為が成立するように、第三者が両者の間に立って尽力することをいうところ、本件の基本契約1条で、A社が顧客に対し被告のクレジット制度を利用して商品を販売することとされ、同5条で、顧客のクレジット申込書はA社を通じて被告に提出し、被告の承諾可否の結果をA社が顧客に対し通知することとされていること等に照らすと、A社は、顧客に商品を販売する過程において、顧客と被告との間に立って、両者間にクレジット契約が成立するよう尽力することを、基本契約に基づき被告から委託されていると解するのが相当である。

したがって、被告は、A社に対し、被告と顧客との間の消費者契約であるクレジット契約の締結について媒介をすることを委託しているのであるから、消費者契約法5条の適用があると解すべきであって、被告らの上記主張は採用することができない。

(2) 前記認定事実によれば、A社は、被告に無断でC社を代理店とし、同社に被告のクレジット契約書の用紙を交付して、Bらはこれを用いて顧客にクレジット契約を締結させていたことが認められる。これによれば、A社は、被告から受託したクレジット契約の締結についての媒介という業務について、C社に対し再度委託をしたものと認めるのが相当である。

被告は、C社ないしBらは被告が承認した正規の代理店ではないから、消費者契約法5条にいう「受託者等」に該当しない旨主張する。

確かに、被告の承認を得ていない代理店、取次店等にクレジット契約の取扱を行わせることは、基本契約13条に抵触するが、被告との間に契約違反の問題を生じることは別論として、A社がC社にクレジット契約の締結についての媒介業務を委託することは、被告の承認を得ることなく、両社間の契約により可能であり、それにもかかわらず、C社が、消費者契約法5条1項にいう「その第三者から委託を受けた者」に含まれないと解すべき根拠はない。

なお、被告は、消費者契約法5条について、消費者保護と事業者側の取引の安全との衡平の見地から、事業者の第三者利用に落ち度があるために消費者保護を重視してもやむを得ない事情がある場合を想定した規定である旨主張するが、このような消費者と事業者が対等な当事者であることを前提とする解釈は、同法の目的(1条)と相容れず、採用の限りでない。

したがって、C社は消費者契約法5条にいう「受託者等」に該当するというべきである。

(3) 前記認定事実によれば、Bは、原告に対し、本件クレジット契約の締結について勧誘をするに際し、同契約の目的となるものである役務の質(効果・効能・機能)ないし用途として「H契約及びI契約を解約するため」という事実と異なることを告げ、これによって原告は、本件クレジット契約によりH契約及びI契約を解約することができるとの誤認をし、これによって、被告からの電話に対し、本件クレジット契約の申込の意思表示をしたと認めることができる。

上記の告知に係る「本件クレジット契約を締結すれば、H契約及びI契約を解約することができる」という事項は、本件クレジット契約の締結により契約者が得る利益そのものに関する事項であって、一般平均的な消費者が本件クレジット契約を締結するか否かについての判断を左右すると客観的に考えられる基本的事項であるから、消費者契約法4条にいう「重要事項」に該当するというべきである。

(4) 以上によれば、原告は、消費者契約法4条及び5条に基づき、本件クレジット契約の申込の意思表示を取り消すことができ、原告の被告に対する本件クレジット契約取消の意思表示によって、同契約に基づき原告が被告らに対して支払った既払金は、法律上の原因を失ったというべきである。

したがって、不当利得に基づき被告らに対し既払金の返還を求める原告の請求は理由がある。