成年後見
成年後見制度(せいねんこうけんせいど)
高齢化社会に伴い,ご高齢の方の中には認知症等により,ご自身で財産処分ができない可能性があります。
また,判断能力が十分でないために,簡単に人に騙されたりして一文無しになってしまう恐れもあります。
そこで,このような判断能力が十分でない方を支援するために成年後見制度が設けられました。
この成年後見制度については「後見」,「補佐」,「補助」,「任意後見」の4種類ありますが,大きく分けて法定後見と任意後見に分けることができます。
成年後見制度の申立の動機
平成21年度の成年後見制度の主な申立の動機を見てみますと,別表のように財産管理処分,身上看護,遺産分割協議と続きます(成年後見関係事件の概況-平成21年1月~12月-)。
中でもダントツなのが財産管理処分でして,これは犯罪収益移転防止法に基づく本人確認や,親族間トラブルの頻発等から金融機関が法令遵守を強く求めることが背景にあります(LIBRA平成22年12月号5頁)。

すなわち,まとまった金額を動かす場合,金融機関は本人確認しますので,そのとき本人が痴呆症である場合には,成年後見制度を利用しなければならず,これが財産管理処分を目的とした申立につながるわけです。
また,身近な問題として,たとえば,父親の土地上にある建物を建て替えようとしても,父親が認知症であるため,住宅ローンの担保を設定することができないとか,中小企業の創業者である唯一の取締役社長が高齢になったため,事業承継を検討する上で取締役の地位をどうしていくかなど(LIBRA平成22年12月号2頁),様々な場面で成年後見制度について検討していくことが必要となってきました。
成年後見申立の推移
「成年後見関係事件の概況-平成21年1月~12月-」という最高裁判所事務総局家庭局がまとめた報告書によりますと,平成17年から平成21年までの過去5年間に後見制度を利用される方のうち,圧倒的多数の方が法定後見制度の中でも「後見」を利用されております。

法定後見(ほうていこうけん)
法定後見とは,後見による保護を受ける方の意思に関係なく家庭裁判所の審判によって保護を行おうという制度です。
この制度に属するものが「後見」,「補佐」,「補助」です。
他方,「任意後見」とは,後見による保護を受ける方の判断能力がはっきりしている状態の時に,将来に備えて将来自分の生活,療養看護,財産状況に関する事務について,自分の頼んだ方にこれらの事務を行ってもらうということを予め契約で定めておく制度です。
そして,法定後見のうち「後見」とは,精神上の障害により常に判断能力を欠く状態にある方が,「補佐」とは著しく判断能力が不十分な方が,「補助」とは判断能力が不十分な方が,それぞれ制度の対象者となります。そして,これらの方に対して家庭裁判所が保護を始めますよと言ってそれぞれの制度が開始されることになります。

これらの審判を申し立てることができるのは,ご本人・配偶者・四親等以内の親族・保佐人・補助人・任意後見人もしくは任意後見監督人等ですが,ご本人が痴呆性高齢者・知的障害者及び精神障害者でその福祉を図るため特に必要がある場合には市町村長も申し立てることができるようになりました。
また,「後見」の場合,後見人には広範な代理権・取消権が与えられますが,日常生活に関する行為は取消権が認められておりません。すなわち、後見人は被後見人に代わって契約をしたり,成年被後見人が行った契約を取り消すこともできますが,被後見人が行った日常生活に関する行為は取り消すことができません。
これに対し,「保佐」の場合,保佐人には,一定の法律行為について同意権や取消権があります。この同意権には借財や不動産の処分等法律上当然に認められるものと,これ以外に申立権者の請求により裁判所の審判によって認められるものがあります。また,被保佐人の同意がある場合には裁判所の審判によって代理権を与えることできます。
「補助」の場合には,必ず同意権付与の審判または代理権付与の審判とともに補助開始の審判が申し立てられ,補助人には同意権・代理権が付与され,これらが付与された行為について取消権が認められます。
最後に,「後見」・「保佐」・「補助」のいずれの場合も本人の住居に供する土地・建物を売却したり,賃貸,賃貸借の解除または抵当権の設定その他これらに準ずる処分をしたりするには家庭裁判所の許可を得なければなりません。
「後見」・「保佐」・「補助」それぞれのについてまとめたのが下の表となります。

任意後見制度(にんいこうけんせいど)
この制度は,委任者本人が将来自分の判断能力が弱まった場合に備えて,将来の自分の生活,療養看護,財産管理に関する事務を自分が信頼できる者(任意後見受任者)に行ってもらうことを予め契約で定めておく制度です。
① 公正証書
この契約は公正証書で行わなければならず,公正証書が作成されたら,公証人の嘱託により,この契約書は法務局で登記されることになります。
② 任意後見契約の効力発生条件
この契約には任意後見監督人が選任された時から効力が発生するという規定が定められていなければなりません。
③ 任意後見人の権限と委任者本人の資格制限
この契約により任意後見受任者に与えられるのは,代理権のみであって,法定後見と異なり,取消権は認められません。また,法定後見のうち成年後見の場合には選挙権が剥奪されたり,また,成年後見や保佐の場合には資格制限によって取締役の地位を喪失したりすることがありますが,任意後見の場合にはこのような不利益はありません。

④ 任意後見監督人選任の申立
任意後見監督人が選任されたあと,任意後見契約は効力を生じ,任意後見受任者は任意後見人と呼ばれるようになるのですが,任意後見監督人が選任されるためには,原則として本人・配偶者・四親等内の親族又は任意後見受任者が委任者本人の判断能力が衰えたので任意後見監督人を選任して欲しいと家庭裁判所に請求しなければなりません。この場合,本人の意思を尊重する必要がありますので,本人以外の者が申し立てる場合には,原則として本人の同意が必要となります。
成年後見にかかる費用
申立に関する費用
弁護士費用:21万円
印紙代:一つの申立に対して800円
切手代:3000円~5000円程度
医師の鑑定費用:5万円~15万円
後見人の報酬
原則,年間約20万円(東京家庭裁判所の決定に基づきます)。
それ以外に,手続を行えば,加算される場合がありますが,金額は家庭裁判所で決定されます。
成年後見のよくある質問
Q.事前に任意後見契約で後見人を定めておくメリットって何ですか?
A.任意後見制度は法定後見制度とは異なり,予め後見人を誰にしておくか,ご自分の意志で決めておくことができます。
更に、今後の生活についても予め後見人と話し合って決めておくことができ,法定後見制度よりもご自分の意志をより反映させることができる制度といえることができます。
また,契約内容によっては,判断能力が低下する前から財産管理等を後見人にお願いすることもできますので,法定後見制度よりも便利な制度といえるでしょう。
Q.一人暮らしの叔母が脳梗塞で入院しています。医師からは回復の見込みが無いといわれておりますが,金融機関によれば,叔母の意思確認ができないと叔母の口座からお金をおろすことはできないとのことです。
現在は私が入院費を支払っておりますが,このまま支払を継続していくことは困難なので,何かいい方法はないでしょうか?
A.ご相談にあるように,ご本人の今後の回復見込みが無く,自分自身で判断することが困難な場合のご本人の財産管理の方法として成年後見制度をご利用されることをお勧めいたします。
今回のケースでは家庭裁判所から選任された成年後見人がご本人の口座からお金をおろして入院費を支払うことができますので,ご相談者に負担をかけることはなくなります。
また、これまで立て替えて支払った医療費についても請求することができますので,領収書等は必ずとっておきましょう。
Q.母が交通事故に遭って,びまん性脳挫傷,遷延性意識障害を患い,いわゆる植物状態となって病院に入院しております。保険会社は示談を求めてくるのですが,今後どのような手続を行ったらよろしいでしょうか?
A.ご本人がいわゆる植物状態でご自身で示談交渉ができない以上,ご本人の代わりに保険会社と示談交渉をする代理人を選任する必要があります。
ここで必要となるのが成年後見制度です。
成年後見制度は,ご本人の親族が申し立てることができますので,これによって後見人が選任され,後見人が保険会社と示談交渉をすることになります。
次に,示談交渉についてですが,一般に保険会社の提示金額は裁判所の判決で認められる可能性のある金額よりも低い金額が提示されることが多いので,保険会社の提示金額が妥当なものであるかどうか検討する必要があります。
この金額の妥当性については,お話しいただければ,ご相談に応じますので,お気軽にご相談下さい。
Q.父が亡くなり相続がはじまったのですが,母親が認知症です。この場合遺産分割協議はできますか?
A.認知症で遺産分割協議の意味と効果が理解できない場合には,母親はご自身で遺産分割協議ができないので,成年後見を申し立て,成年後見人が母親を代理して遺産分割協議を行うことになります。この場合,特別代理人の制度はありませんのでご注意ください。
また,成年後見人も相続人である場合には,成年後見監督人または特別代理人が代理して遺産分割協議を行うことになります。
Q.配偶者に精神上の障害があるのですが,判断能力が不十分な状態です。この場合の離婚手続きはどのようにおこなったらよいのでしょうか?
A.その配偶者が離婚の意味と効果を理解している場合には協議離婚も,本人を相手とする離婚訴訟も行うことができます。本人に成年後見人が就いている場合でも成年後見人の同意は不要です(民法738条)。
その配偶者が離婚の意味と効果を理解できない場合には協議離婚をすることはできないので,成年後見の申し立てをして成年後見人を相手に離婚訴訟をすることになります(人訴14条第1項)。
なお,ご自身が配偶者の成年後見人である場合には,成年後見監督人を相手に離婚訴訟を提起することになります(人訴14条第2項)。
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