桐生貴央の法律解説ブログ - 広尾総合法律事務所
二重課税にNO!
平成22年7月6日、最高裁判所は遺族が分割で受け取る生命保険金に対し、相続税と所得税の両方を課したのは「違法な二重課税」との判決を下した。
この判決により払いすぎた税金を取り戻すことができますので、税務署の処分に従って税金を支払ってきた方にとっては朗報です。
【事案の内容】
① 上告人の夫は年金払特約付きの生命保険契約の被保険者であり,その保険料を負
担していた。
② 夫が死亡したことにより,妻である上告人は同契約に基づく第1回目の年金として夫の
死亡日を支給日とする年金の支払を受けた。
③ このとき上告人は,当該年金の額を収入金額に算入せずに所得税の申告をしたとこ
ろ,長崎税務署長から雑所得として総所得金額に加算する内容の更正処分を下した。
④ そこで,上告人は,当該年金は,相続財産に当たり相続税の対象となるにもかかわら
ず,これに更に所得税を課すことは二重課税に当たるので許されないとして更正処分の
取消を求めた。
【判決】
1 ① 所得税法9条1項は,その柱書きにおいて「次に掲げる所得については,所得税を
課さない。」と規定し,その15号において「相続により取得するもの(みなし相続財産
も含む。)」を掲げている。
② そして,同項柱書きの規定によれば,同号にいう「相続により取得するもの」とは,
相続により取得し又は取得したものとみなされる財産そのものを指すのではなく,
当該財産の取得によりその者に帰属する所得を指すものと解される。
③ そして,当該財産の取得によりその者に帰属する所得とは,当該財産の取得の時
における価額に相当する経済的価値にほかならず,これは相続税の課税対象とな
るものであるから,同号の趣旨は,相続税の課税対象となる経済的価値に対しては
所得税を課さないこととして,同一の経済的価値に対する相続税と所得税との二重
課税を排除したものであると解される。
2 ① 相続税法3条1項1号は,被相続人の死亡により相続人が生命保険契約の保険金
を取得した場合には,当該相続人が,当該保険金のうち被相続人が負担した保険料
の金額の当該契約に係る保険料で被相続人の死亡の時までに払い込まれたものの
全額に対する割合に相当する部分を,相続により取得したものとみなす旨を定めてい
る。
② 上記保険金には,年金の方法により支払を受けるものも含まれると解されるところ,
年金の方法により支払を受ける場合の上記保険金とは,基本債権としての年金受給
権を指し,これは同法24条1項所定の定期金給付契約に関する権利に当たるものと
解される。
③ そうすると,年金の方法により支払を受ける上記保険金(年金受給権)のうち有期定
期金債権に当たるものについては,同項1号の規定により,その残存期間に応じ,そ
の残存期間に受けるべき年金の総額に同号所定の割合を乗じて計算した金額が当
該年金受給権の価額として相続税の課税対象となるが,この価額は,当該年金受給
権の取得の時における時価(同法22条),すなわち,将来にわたって受け取るべき年
金の金額を被相続人死亡時の現在価値に引き直した金額の合計額に相当し,その価
額と上記残存期間に受けるべき年金の総額との差額は,当該各年金の上記現在価
値をそれぞれ元本とした場合の運用益の合計額に相当するものとして規定されてい
るものと解される。
④ したがって,これらの年金の各支給額のうち上記現在価値に相当する部分は,相
続税の課税対象となる経済的価値と同一のものということができ,所得税法9条1項
15号により所得税の課税対象とならないものというべきである。
3 ① 本件年金受給権は,年金の方法により支払を受ける上記保険金のうちの有期定期
金債権に当たり,また,本件年金は,被相続人の死亡日を支給日とする第1回目の年
金であるから,その支給額と被相続人死亡時の現在価値とが一致するものと解され
る。
② そうすると,本件年金の額は,すべて所得税の課税対象とならないから,これに対
して所得税を課することは許されないものというべきである。
平成22年07月06日 最高裁判所第三小法廷
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