10月11日の判決。民法158条の法意

水戸地方裁判所下妻支部平成25年10月11日判決

不法行為から20年経過すれば除斥期間の経過により損害賠償請求できないところ,症状固定認定手続から訴えの提起までの経過は、損害賠償請求権を行使する一連一体の行為と捉え,除斥期間にはかからず損害賠償請求が認められた事例

考察

民法158条1項
時効の期間の満了前6箇月以内の間に未成年者又は成年被後見人に法定代理人がないときは、その未成年者若しくは成年被後見人が行為能力者となった時又は法定代理人が就職した時から6箇月を経過するまでの間は、その未成年者又は成年被後見人に対して、時効は、完成しない。

この条文の法意を汲み取って,時効にかからせなかったんだと思う。

裁判官の優しさが伝わる判決です。

事案の概要

本件は、交通事故により負傷し、後遺障害を残した原告が、被告に対し、民法709条及び自動車損害賠償保障法3条に基づき損害賠償請求した事案。

前提事実

原告は、平成2年生まれの女性。

2歳のときに父の運転するの普通乗用自動車に乗っていたところ,被告運転の普通乗用自動車が、道路中央を越えて反対車線に飛び出し,原告の父運転の普通乗用自動車に衝突させた。

この事故により,原告は、本件交通事故により、軸椎歯突起骨折、特発性側弯症、脳挫傷、右腎挫傷、右鎖骨骨折等の傷害を負った。
 
事故後,原告は平成24年まで入退院を繰り返し,平成24年8月8日,原告は,滋賀県立小児保健医療センター・整形外科・二見徹医師により,頸椎の障害、左骨盤骨の変形,後頸部等の瘢痕の後遺障害について,同日症状固定の診断を受けた。

その後上記診断を受けて自動車損害賠償責任保険の事前認定の手続が進められ、平成24年9月26日、原告の上記の後遺障害について、①頸椎の障害につき、「脊柱に変形を残すもの」として、自動車損害賠償保障法施行令別表第二(以下、省略する)第11級7号に、②左骨盤骨の変形につき、「骨盤骨に著しい変形を残すもの」として、第12級5号に、③瘢痕のうち後頸部の瘢痕について、「女子の外貌に醜状を残すもの」として、第12級14号に、それぞれ該当し、①ないし③を併せて併合第10級に該当するとの認定がなされ、そのころ原告は、この認定結果の通知を受けた。

平成25年2月23日、原告は、当庁に本訴を提起した。

争点

本件交通事故は平成4年12月29日に発生したものであり、それから平成25年2月23日の本訴の提起までに20年以上が経過している。したがって、原告の損害賠償請求権は、民法724条後段の除斥期間の経過によって、法律上当然に消滅している。

裁判所の判断

民法724条後段の20年の期間は、被害者側の認識のいかんを問わず不法行為時からの一定の時の経過によって法律関係を確定させるため請求権の存続期間すなわち除斥期間を画一的に定めたものと解するのが相当である。

しかるところ、本件交通事故は自動車損害賠償責任保険の付保されている交通事故であるところ、原告は、平成24年8月8日に後遺障害について症状固定の診断を受け、その診断書を被告側任意保険会社に提出して自動車損害賠償責任保険の事前認定の手続を進めさせ、平成24年9月26日ころに後遺障害は併合第10級に該当するとの認定を受け、それから6か月以内の日である平成25年2月23日に当庁に本訴を提起したが、同訴提起日は本件交通事故の日である平成4年12月29日からは20年以上が経過している。

そこで検討するに、平成24年8月8日に後遺障害について症状固定の診断を受けたとしても、そのことをもって原告に対して事前認定の結果が出る前の事前認定手続期間中に訴えの提起を求めるのは困難である(仮にそのような訴えの提起があったとしても、交通事故損害賠償請求訴訟の実際に鑑みれば、訴訟が動き出すのは事前認定の結果が出てからになると思われ、そのような訴えの提起を敢えて求めることに意味があるとも思えない)こと及び事前認定を受けた平成24年9月26日ころから訴えの提起を準備するとしても、それから6か月の期間は通常必要と認められることからすれば、原告が症状固定の診断書を被告側任意保険会社に提出して事前認定の手続を進めさせてから平成25年2月23日に本訴を提起するまでの経過は、原告が本件交通事故による損害賠償請求権を行使する一連一体の行為と捉えることができ、そうすると、本件では本件交通事故から20年の除斥期間内において権利行使がなされたと見るのが相当であるから、これによって除斥期間の満了は阻止されたことになると判断するのが相当である。

以上のように自動車損害賠償責任保険の付保されている本件交通事故においてその損害賠償請求権行使の行為を一定の時間的な幅を持つものと捉えたとしても、その幅は症状固定の診断書を提出して事前認定の手続を進めさせてから認定結果が出るまでの事前認定手続期間及び事前認定から6か月の訴え提起準備期間に限られているから、法律関係を画一的に確定しようとする除斥期間の趣旨を乱すことはないというべきである。

以上のとおり、本件では民法724条後段の適用はない。

よって、原告の請求は、被告に対し、損害賠償として1765万9061円及びこれに対する平成4年12月29日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、主文のとおり判決する。